ビールから始まるソーシャル・チェンジ

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ビールのラベルにメッセージ:The Guardianの記事より転載

「議論を促す」おしゃれな社会貢献ビジネス

バーや居酒屋での話題といえば、上司の愚痴や同僚の噂話が定番。うまいビールと酒を飲み交わし、気のおけない仲間たちと日々の憂さを晴らすのが、何といっても楽しい。ほろ酔い気分でリラックスし、心を素直にできる酒場は、人と人とをつなぐコミュニケーションの場としても魅力的だ。

そんな酒の席で、社会の課題について触れ、公平で夢のある未来について話し合うことも、わたくしたちの人生を豊かにしてくれるかもしれない。

女性の自立や移民問題など、社会の課題を解決することを目的に、オーストラリアの若い女性8人で立ち上げた新しい酒造会社会社が、Sparkke Change Beverage Co.である。自社のビール缶のラベルに、男女平等、セクシュアル・コンセント(性の同意)や移民問題などに関するさりげないメッセージを添えて販売する。

「Niples are Nipples(乳首は同じ乳首)」、「Consent can’t come after you do(やってしまった後では、『同意』はできない)」などのメッセージを、おしゃれなデザインと色で表現し、ビール缶ラベルに添えている。男女平等やセクシャル・コンセントに関する関心を高め、メッセージを機に人々が酒の席で議論することを期待している。

現在は他社の醸造したビールを仕入れて販売しているが、いずれ自社の醸造所を作る計画だ。酒造メーカーとして持続的なビジネスを広げながら、社会を変えていくプラットフォームをつくっていくことをビジョンに掲げているという。

「ソーシャル・エンタープライズ=社会課題を解決するためのビジネス」というと、何やら大げさで、かしこまったように聞こえるが、こうしたしなやかで、おしゃれな方法もある。ビールを傾けながら、人の幸せや公平な社会について話すのも悪くない。

Sparking change: social enterprise serves up feminism with beer and fashion/The Guardian/January 8, 2017

【イノベーション】進化するアフリカのソーラー・システム

Deutsche Welleの記事より転載

Deutsche Welleの記事より転載

資金回収の課題を乗り越えて進む自家用ソーラーシステム

無電化の地域に自家用のソーラー・システムを入れる動きは、バングラデシュなどで広く普及している。バングラデシュでは政府の推進もあり、現在、実に100万世帯がソーラー・ホーム・システムで電化されてる。

このような爆発的な普及が実現した理由は、ソーラー・パネルの値段が劇的に低くなったことや、LED電球のような省エネ家電が普及し小さな発電量でも使い道が画期的に広がったことなどが挙げられるが、最も大きな推進力はファイナンスであろう。低所得者でも手が届くように、分割払いの方法を取り入れ、購入者の初期投資にかかる資金負担を軽減した。毎月の少額返済を1年〜2年続けて完済するとシステムは100%購入者のものになる。こうした仕組みのバックファイナンスを世銀などの国際機関などが政府を通じて支援している。

分割払いの方法は、バングラデシュではマイクロファイナンスの仕組みとネットワークがお膳立てした。現在、バングラデシュで最も販売量多いソーラー・ホーム・システムの会社がグラミンバンクのグループ企業やBRACのグループであることは偶然ではない。

しかし、バングラデシュで成功したこのモデルを、アフリカにそのまま持ち込むことはできない。一番のネックは資金の回収だ。南アジアのような人口密度の高いところでは、資金の回収は人手を使ってきめ細かく行うことができる。1㎢あたり1000人もいれば、1日で多くの顧客を回ることができる。しかし、アフリカではそうはいかない。家と家の間が数キロ離れていることもざらだ。こういうところでは、資金回収にかかるコストが高すぎて採算が合わないのだ。

この課題を解決する糸口を与えたのはモバイルのネットワークとM-Pesaのようなモバイル・ファイナンスの普及だ。アフリカでも、いまやモバイル・ネットワークは広く普及し、どこへ行っても携帯電話は通じるようになっている。また、モバイル・ファイナンスでは、銀行口座を持たなくても携帯電話で資金決済(送金・入金)や貯蓄ができるようになった。こうした新しいインフラが、アフリカの自家用ソーラー・システム(現地ではpico-solar systemと呼ぶ)の普及に新しい推進力をもたらすことになった。

Deutsche Welleの記事より転載

Deutsche Welleの記事より転載

例えば、ケニアをベースにしているM-KOPAやドイツのベンチャーであるMobisolなどである。今、アフリカの東部地域を中心に大きく成長している注目の自家用ソーラー・システムのベンチャー企業である。どちらのモデルも、資金の回収をモバイル・ファイナンスで行っており、顧客との現金のやりとりはなく、資金回収のための人件費が必要ない。これにより大幅なコストダウンを実現し、また資金管理を効率化した。

では未払いとなる顧客への対応はどうするのか。ファイナンスでは、かならず滞納する人々が存在し、その対応に相当の手間とコストが必要となる。両社は販売するシステムのそれぞれにSIMを挿入し、ワイヤレスで1件1件のシステムをセンターで管理できる仕組みを開発し、この最大の問題を解決している。支払いが滞った顧客のシステムは、遠隔から自動的に停止させる。支払いが再開されれば、機能を戻す。これで購入者の返済のモチベーションを上げる仕組みだ。

このワイヤレスの機能は、単なる資金回収以上に効果を発揮している。システムの稼働状況、顧客の電気の利用状況などを把握できるようにして、この情報をマーケティングに有効活用しているのだ。Mobisolの場合、これをベルリンでコントロールしている。世界は、全く新しい次元のビジネスモデルを可能とする時代に入ってきているということだ。

必要は発明の母という古い言葉は、ここにも当てはまる。イノベーションがイノベーションを生み出す循環が、アフリカで始まりつつある。

Powering Developing World with Solar?/Deutsche Welle/July 15, 2015
Solar Energy Lights Up Kenya/Deutsche Welle/July 8, 2015
Solar and Wireless/Deutsche Welle/Jan 28, 2015

イギリスのBuy Socialキャンペーン

Social Enterprise UKのホームページより転載

Eat me, Drink me, Wear me, Buy me: Social Enterprise UKのホームページより転載

イギリスのソーシャル・エンタープライズ普及法

イギリスは、国の政策として社会起業家(ソーシャル・エンタープライズ)を推進していて、その着実な広がりは地に足の着いたもののように見える。当然、無数の試行錯誤を日々繰り返してきて、今に至ったものに違いないが、そのアプローチが戦略的で実務的なところがお国柄を感じさせる。

例えばソーシャル・エンタープライズの普及と支援を行っているSocial Enterprise UKは、社会起業家の「業界団体」のような存在だが、その主要な活動は政府へのロビー活動であり、政策提言とソーシャル・エンタープライズのアジェンダを政策の優先事項に上げるためのキャンペーン活動を中心に活動を展開している。メンバーを動員して政治的な力を増し、社会起業家の利益代表として国に働きかける姿勢は、日本ではまだ見られない動きだ。

Social Enterprise UKのホームページ

その数あるキャンペーンの中に、2012年から始まったBuy Socialキャンペーンがある。これは一般の民間企業と消費者の購買活動をソーシャル・エンタープライズに結びつけることを狙いにしており、企業の仕入れ調達のサプライチェーンのなかに、ソーシャル・エンタープライズを組み込むことで「企業の社会的な価値も上げよう」というキャンペーンである。

Buy Social キャンペーンの動画

すごいなと思うのは、こうしたキャンペーンの厚みである。ソーシャル・エンタープライズのデータベースつくって公開し、企業の調達規則のドラフトまで用意する。「これでもか」と様々な施策を畳み掛ける。こうした施策が全て成果を出している訳ではないだろうが、その重厚さは見習いたい。

日本でのソーシャルな動きは、ビジネスコンテストが花盛りでイベント的なものが多いように感じるが、本当に社会を変えるには、多くの人々を動員する戦略性と実務能力も必要になってくると思われる。