【イノベーション】海中農園でイチゴ栽培!

The Guardian紙の記事より転載

The Guardian紙の記事より転載

海底で農作物を栽培

巨大なバクテリオファージのような形をして海底に浮かぶ物体は、海中に設置されたグリーンハウスである。SF映画にでも出てくるような光景であるが、この海中農園でレタスやキャペツ、イチゴまで栽培されているのだ。

スイスのスキューバ・ダイビング用品の製造メーカーであるOcean Reef Groupが開発している海中グリーンハウスは、その名も「ニモ・ファーム(Nemo Farm)」。ディズニーのアニメキャラクターに由来しているが、まさに夢のあるプロジェクトである。イタリアの海岸沖100メートルの浅瀬をテストベッドに、2012年より実験が行われてきた。グリーンハウスのそれぞれに栽培用のトレーが8〜10枚置かれ、さまざまな種類の農作物が育てられている。

海中グリーンハウスでは、水耕栽培の技術を活用する。ハウス内で蒸発した海水は、天井で露となり、したたり落ちて作物の水となる。海中の温度は安定しており、天候に左右されず、害虫の心配もない。太陽光は海水で遮られるが、植物の成長で一番大事な赤外線は海中5〜15メートルまでは届くので、浅瀬であれば問題はない。むしろ環境的には地上より早く成長することが、実験で示されているという。ただし課題もある。誰でもすぐにできるわけではなく、熟練したダイバーが運営する必要がある点だ。

41946a6a-2024-4583-b322-fb1b372337a2-620x372 (1)

The Guardinan紙の記事によれば、現在、Ocean Reef Groupはプロジェクトを本格的に展開するための資金調達をクラウドファンディングで進めているとのこと。ビジネスサイドからのアプローチもあるようだ。しかし、Ocean Reefは付加価値の高い農産物をつくるようなニッチなビジネスには興味はないという。最終目標は、グローバルな食糧の安定供給に貢献することだ。農作に適した土地や水が少ない中東諸国やモルジブなどで有効に使える技術だと考えているようだ。

既存の農家や海洋環境への影響を心配する人もおり、普及するには多くの課題が残されていると思うが、このようなファンタジックなアイデアに真剣に取り組む人々がいることは、世界に少し明るい日差しが差し込むような思いがする。

The Guardian/ Under the sea: the underwater farms growing basil, strawberries and lettuce/ August 13, 2015

【エネルギー】モロッコにおける再生可能エネルギー開発の勢い

Ain Beni Mathar Integrated Combined Cycle Thermo-Solar Power Plant/World Bank Photo Collection

Ain Beni Mathar Integrated Combined Cycle Thermo-Solar Power Plant/World Bank Photo Collection

2020年:国の発電量の42%を再生可能エネルギーで!

モロッコといえば、多くの人が映画「カサブランカ」を思い出すであろう。ハンフリー・ボガードとイングリッド・バーグマンが主演するこの名作は、映画で使用された「As Times Goes By」の曲とともに、観た人の心に強く印象を残す。

日本の面積の1.2倍の国土に、約3300万人の人口を抱えるモロッコは、農業(麦類、ジャガイモ、トマトなど)と漁業(タコ、イカ、鰯など)が盛んな農業国で、アフリカで5番目に大きな国内総生産を誇っている。フランスの影響を強く受けたアラブの文化は、エキゾチックなイメージを醸し出し、多くの日本人観光客を引き寄せている。

さて、モロッコは今、再生可能エネルギーを中心としたエネルギー政策への大転換を推進している。モロッコは日本と同様に、石油や天然ガスなどの天然資源を持たないため、現状、国のエネルギーの実に9割以上を海外からの輸入に頼っているのだ。経済が毎年4%〜6%のペースで成長し、エネルギーに対する需要が大きく増加していることから、安定したエネルギー生産は喫緊の課題である。エネルギーにかかる国民への助成金も巨額で、財政に大きな負担となっている。

その抜本的な対策として、モロッコ政府は2020年までにエネルギー総生産量の42%を再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力)でまかなう長期計画を打ち立てた。太陽光発電と風力発電のそれぞれで2000MWの発電量を目標にする。これは二酸化炭素の排出量も大きく削減する効果もある。

すでに大掛かりな開発プロジェクトが次々と開始されており、世銀をはじめ、欧州系の開発銀行がファイナンスを行っているほか、民間投資も活発になっている。中でも中東諸国からの投資が大きくなっているようだ。

世界銀行 (2014/9/30):Expansion of Morocco’s Largest Solar Complex to Provide 1.1 Million Moroccans with Clean Energy

Forbes (2015/4/27) : Morocco Continues its Renewable  Push with Saudi-backed Wind Projects

再生エネルギーへの投資金額も急速に伸びている。投資額は2012年の3億ドル弱から、2013年の18億ドルへと大きく伸びている。こうした投資と開発により、モロッコは中東・北部アフリカ地域における再生エネルギー分野の最先端をいくリーダー的な存在に成長しつつあり、欧州へのエネルギー輸出も視野に入れている。

Climate Policy Observer (2015/7/28): Renewable Energy Deployment in the MENA: a regional overview

日経新聞 (2011/9/20): モロッコが再生エネルギーを輸出へ:太陽エネルギー庁長官に聞く

日本への技術協力の期待も高く、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)とも技術提携し、基本調査が行われている。また風力発電プロジェクトの一部に三井物産も受注を受けているようだ。

天然資源がないからこそ、新しい分野の導入が進みやすい。いわゆるリープフロッグ型発展の典型のようなパターンだ。モロッコは2016年のCOP22のホスト国でもある。まだいろいろな課題や制約が残っているようだが、モロッコのエネルギー政策の進展にも注目しておきたい。

【ライフスタイル】給食か弁当か?デンマーク人の子育て事情

iStock_000043083726_Medium-630x390

The Copenhagen Postの記事より転載

白熱する給食をめぐる議論

我が子が食べるものは、親が管理したい!デンマークでは、学校の給食制度導入に関して今、白熱した議論が専門家(給食推進派)と親たちの間で交わされているようだ。デンマークの英字紙「The Copenhagen Post 紙」が伝える記事をご紹介する。

Parents or School-who should be responsible for school lunches/ The Copenhagen Post/ August t, 2015

デンマークの小学校の子供達の昼食は、親がつくる弁当(Lunch Box)が伝統的だ。フィンラドやスウェーデンなど、他のスカンジナビア諸国は給食制度を導入しているが、デンマークでは頑なに「弁当主義」を守ってきた。しかし、ここにきて給食制度を導入する動きが生まれている。

給食制度を推進する専門家たちは、子供の食事の偏りを指摘する。曰く、多くの親は毎朝慌てて弁当を作っており、栄養面でバランスが取れていないし、ジャムをつけたサンドイッチのような、単純でワンパターンとなるケースが多い。給食であれば栄養面も十分に配慮し、手の込んだ献立を用意することができる。したがって、子供達の健康のためにも給食制度を導入し、健康的な昼食を食べさせるべきだ、と。

これに対して親たちから一斉に反対の声が上がった。我が子の食べるものは、親が管理すべきだ。欧米の事例でも給食は肥満児を増やすばかりで、ハンバーガーとかフレンチフライのような不健康なものが出されている。子供達の健康には親が責任を持つべきだ、という主張である。記事によれば、デンマークでは子供に弁当をつくることは、子供への愛情とおもいやりに強く結びついているそうで、親は簡単にこの絆を切りたくないと考えているようだ。

もちろん、給食の導入に賛成する親たちもいるわけであるが、このデンマーク人たちの反応は子育てのあり方について考えさせられる。日本のメディアの記事やニュースを見る限り、日本の親たちは、子供のしつけや健康管理に関して、学校にたよる度合いが強いように思える。親は「愛情」を与える役割に徹し、あとは学校に任せるという隠れた意図も見え隠れする。

「生活大国」と言われ、Well Being(人間として豊かな生活)が育つ国と言われるデンマーク。福祉政策などの社会的なスキームだけではなく、個人の根本にある「豊かに生きることへの責任感」といったものを感じさせるエピソードである。

【イノベーション】進化するアフリカのソーラー・システム

Deutsche Welleの記事より転載

Deutsche Welleの記事より転載

資金回収の課題を乗り越えて進む自家用ソーラーシステム

無電化の地域に自家用のソーラー・システムを入れる動きは、バングラデシュなどで広く普及している。バングラデシュでは政府の推進もあり、現在、実に100万世帯がソーラー・ホーム・システムで電化されてる。

このような爆発的な普及が実現した理由は、ソーラー・パネルの値段が劇的に低くなったことや、LED電球のような省エネ家電が普及し小さな発電量でも使い道が画期的に広がったことなどが挙げられるが、最も大きな推進力はファイナンスであろう。低所得者でも手が届くように、分割払いの方法を取り入れ、購入者の初期投資にかかる資金負担を軽減した。毎月の少額返済を1年〜2年続けて完済するとシステムは100%購入者のものになる。こうした仕組みのバックファイナンスを世銀などの国際機関などが政府を通じて支援している。

分割払いの方法は、バングラデシュではマイクロファイナンスの仕組みとネットワークがお膳立てした。現在、バングラデシュで最も販売量多いソーラー・ホーム・システムの会社がグラミンバンクのグループ企業やBRACのグループであることは偶然ではない。

しかし、バングラデシュで成功したこのモデルを、アフリカにそのまま持ち込むことはできない。一番のネックは資金の回収だ。南アジアのような人口密度の高いところでは、資金の回収は人手を使ってきめ細かく行うことができる。1㎢あたり1000人もいれば、1日で多くの顧客を回ることができる。しかし、アフリカではそうはいかない。家と家の間が数キロ離れていることもざらだ。こういうところでは、資金回収にかかるコストが高すぎて採算が合わないのだ。

この課題を解決する糸口を与えたのはモバイルのネットワークとM-Pesaのようなモバイル・ファイナンスの普及だ。アフリカでも、いまやモバイル・ネットワークは広く普及し、どこへ行っても携帯電話は通じるようになっている。また、モバイル・ファイナンスでは、銀行口座を持たなくても携帯電話で資金決済(送金・入金)や貯蓄ができるようになった。こうした新しいインフラが、アフリカの自家用ソーラー・システム(現地ではpico-solar systemと呼ぶ)の普及に新しい推進力をもたらすことになった。

Deutsche Welleの記事より転載

Deutsche Welleの記事より転載

例えば、ケニアをベースにしているM-KOPAやドイツのベンチャーであるMobisolなどである。今、アフリカの東部地域を中心に大きく成長している注目の自家用ソーラー・システムのベンチャー企業である。どちらのモデルも、資金の回収をモバイル・ファイナンスで行っており、顧客との現金のやりとりはなく、資金回収のための人件費が必要ない。これにより大幅なコストダウンを実現し、また資金管理を効率化した。

では未払いとなる顧客への対応はどうするのか。ファイナンスでは、かならず滞納する人々が存在し、その対応に相当の手間とコストが必要となる。両社は販売するシステムのそれぞれにSIMを挿入し、ワイヤレスで1件1件のシステムをセンターで管理できる仕組みを開発し、この最大の問題を解決している。支払いが滞った顧客のシステムは、遠隔から自動的に停止させる。支払いが再開されれば、機能を戻す。これで購入者の返済のモチベーションを上げる仕組みだ。

このワイヤレスの機能は、単なる資金回収以上に効果を発揮している。システムの稼働状況、顧客の電気の利用状況などを把握できるようにして、この情報をマーケティングに有効活用しているのだ。Mobisolの場合、これをベルリンでコントロールしている。世界は、全く新しい次元のビジネスモデルを可能とする時代に入ってきているということだ。

必要は発明の母という古い言葉は、ここにも当てはまる。イノベーションがイノベーションを生み出す循環が、アフリカで始まりつつある。

Powering Developing World with Solar?/Deutsche Welle/July 15, 2015
Solar Energy Lights Up Kenya/Deutsche Welle/July 8, 2015
Solar and Wireless/Deutsche Welle/Jan 28, 2015

【イノベーション】アフリカで進む「次世代型」教育支援ビジネス

Slideshow-Philosophy1

Bridge International Academiesのホームページから転載

途上国の教育支援とデジタルの新しい融合

途上国における教育支援をITを使って支援する試みは、これまで無数にあったが、成功事例は非常に少なかった。例えば、MITのネグロポンテ教授が推進したOLPC(One Laptopp Per Child)の100ドルパソコンが有名である。2005年頃に始まったこのプロジェクトは、小さなパソコンをアフリカ中の学校に配り、子供達の教育を支援するもので、多くのドナーの支援を受けて一世を風靡した。しかし、筆者がルワンダの学校で実際に見てきたところでは、残念ながらそのほとんどが使われておらず、校長室にある金庫に大切に保管されているだけであった。OLPCの活動そのものも、今や聞かなくなっている。

また教室などでパソコンを使い、映像で教育支援を行う仕組みも多く試された。実にたくさんの教育用コンテンツが巨額な資金を使って制作されてきたが、その成果は十分に発揮されたとは言いがたい。

こうした失敗の原因は多々あるが、共通と思われるものをあげると以下の3点となるであろう。1点目は、資金の不足である。小さな規模のプロジェクトが無数に生まれたが、基本的にドナーからの資金に頼っており、プロジェクトが終了すると資金不足に陥り、事業は終了となる。2点目がメンテナンスの難しさである。パソコンやらプロジェクターが故障すると修理できない。そのまま埃をかぶって放置されてしまうのが大半だ。3点目が教師の問題である。いくら立派な機材やコンテンツを渡されても、その利用法について十分な指導やフォローがなければ継続は難しい。

ケニアで始まり、ウガンダにも広がりつつあるBridge International Academiesは、そんな死屍累々の教育支援プロジェクトの欠点を補い、「次世代型」教育支援ビジネスに成功している。すでに12万人の子供たちを教えており、スタッフの数も5000人を超えている。

Slideshow-Reach1

Bridge International のユニークな点は、有料でサービスを提供していることだ。もちろん貧困者でも払うことができる少額だが、無料にはしない。授業料を払ってでも受けさせたい授業をつくることで、持続的な運営を目指している。

またコスト削減にも斬新なアイデアを導入している。基本的に一人の担当者が学校を回すシステムで、教師の負担を軽減するため、ITを活用したバックオフィスが全面的にサポートする仕組みとなっている。授業料の計算や回収は、モバイルバンキングで行い、教師が直接現金計算や管理を行うことはない。

さらに教室で教師が教える方法については、手元のタブレットが指導してくれる。簡単な操作で、授業の教え方がわかり、教師が準備する負担を軽くし、標準的な授業がどこでも行えるようにしている。

Bridgeモデルが実現できた背景には、データ通信の普及と低価格化、タブレットのようなデバイスの普及、モバイルバンキングによる少額オンライン決済の仕組みができたことがある。「次世代」教育支援ビジネスは、時代の変化と技術の発展を上手にビジネスモデルに組み込んでいるのだ。

今後は、もっと教師を負担を軽減し、誰でも先生になれるようなシステムが広がるであろう。また子供達の学習を細かくフォローする仕組みによって、効果的な学習管理の研究が進むに違いない。翻って日本の学校や塾の様子を見ると、IT化が遅れており、教師の負担も過剰なままだ。こういうアフリカの技術とコンセプトこそ、リバースエンジニアリングが必要なように思うが、いかがであろうか。

【イノベーション】バイオニック義手の価格破壊!

Photograph: Open Bionics/Open Bionics/The Guardians紙より転載

Photograph: Open Bionics/Open Bionics/The Guardians紙より転載

3Dプリンターでロボット義手を制作

今、世界ではアシスティブ・テクノロジー(Assistive Technology)と言われる障害を持つ人を支援する技術、特にITやロボットの技術を活用するものが徐々に認知度を高め、関心が持たれ始めている。こうした技術には、目の不自由な人のためのコンピュータ画面を読み上げる技術や、ロボット技術を応用した義足や義手などがあり、世界の多くのエンジニアが取り組んでいる。

こうしたアシスティブ・テクノロジーの一つに筋電義手というものがある。これは手を失われた障害者が残された腕の筋肉の電気信号を介し、直感的に操作する義手のことで、すでに製品化され、販売もされている。ビデオなどで操作のデモンストレーションを見てみると、まるで自分の手のように操作していて実に感動的だ。

こうした技術はとても素晴らしいが、課題はコストの高さだ。通常、筋電義手は安くても150万円以上するという。一般の障害者にはとても手が届かない。しかし、あたらしいイノベーションで価格破壊に挑戦する動きが始まっている。

この動きを促進しているのが、3Dプリンターの普及だ。3Dプリンターが一般的に手が届く値段で購入できるようになり、筋電義手を3Dプリンターで製作する技術者が各地に現われてきた。日本ではExiii(イクシー株式会社)という新しいベンチャーが取り組んでいる。3Dプリンターで部品を製造し、大幅に制作コストを削減している上に、部品交換やデザインなどのカスタマイズも可能にしている。

また同様の動きはイギリスのOpen Bionicsでも展開されている。3Dプリンターを活用して作られた筋電義手は、通常4百万円以上のコストがかかる筋電義手を10分の1の約40万円(2000ポンド)で販売でしている。圧倒的な価格破壊である。こちらもカスタマイズができることを売りにしているようだ。

アシスティブ・テクノロジーの普及化を支援する団体も出てきている。例えばグーグルはインパクトチャレンジ/障害者(Impact Challenge/Disabilities)を立ち上げ、革新的な技術で障害者を支援する団体に助成金を出して応援するプログラムを展開している。日本でバイオニック義手の普及に取り組むNPO法人Mission Arm Japanが前出したExiiiと組んで選出されている。

またイギリスのNestaは、Inclusive Technology Prizeを立ち上げ、アシスティブ・テクノロジーのイノベーションに賞金を出している。

こうしたイノベーションがどんどん進み、障害者にとって住みやすい世界に一日も早くなることを願ってやまない。これからの展開に大いに注目だ。

【スマートシティ】市民のネットワークがつくる安全マップ

Wheelmap   find wheelchair accessible places

身体障害者を支える地図づくり

一般にスマートシティという言葉は、日本ではITや環境技術などの先端技術を駆使して街全体の電力の有効利用を図ることで、省資源化を徹底した環境配慮型都市のことをいう。再生可能エネルギーの効率的な利用を可能にするスマートグリッド、電気自動車の充電システム整備に基づく交通システム、蓄電池や省エネ家電などによる都市システムを総合的に組み合わせた街づくりが行われる(出典:知恵蔵mini/(株)朝日新聞出版社発行)。

しかし、日本以外でのスマートシティという言葉はもっと広い意味で使われている。「電力の有効利用」というのは、その一部でしかない。健康、教育、市政への参加など、市民生活のあらゆる分野を対象とする。ITや環境技術が使われるが、何も先端技術であることもない。前回、前々回と2つの記事で紹介している事例は、その典型である。

そこには、大事なことは市民の生活であるというメッセージがはっきりしていると思う。日本のスマートシティの議論では「経済発展」や「環境対策」といった言葉が全面に出ており、生身の人間に寄り添うイメージがない。日本での「スマートシティ」は死語になったという人もいるが、私たちはもっと自分たちの生活レベルで考えていく必要があるように思う。

例えば、弱者に対する支援だ。ドイツのNGOであるSoziaheldenが2010年に開発したWheelmapというオンラインマップは、都市における様々な場所(ホテル、レストラン、小売店など)における車いす利用者の安全性・利便性を評価し、一般に公開してる。この評価は市民がスマホのアプリケーションを利用してアップするもので、2010年に開始以来、全世界で50万カ所の評価がなされた。このオンラインマップは、車いすにとって安全でないところを一般に知らせると同時に、政府に対して改善を要求するメッセージの意味もある。

オリンピックを2020年に控え、東京の街も大きく変わるであろうが、その際にも市民の生活に寄り添ったアイデアや技術が生まれていくことを期待したい。

【スマートシティ】民主主義の未来?!パリとアイスランドの事例

Accueil   Madame la maire

「スマートシティ型」民主主義のパイロット

ネット社会が普及し、IoTの環境が成長する中で、民主主義の形は変化するであろうか。そのことを考えるヒントとなる試みが、パリやレイキャヴィーク(アイスランドの首都)で行われている。市民がネットを通じて公共事業の提案を行い、投票し、予算の使い方を決めていく。

パリのプロジェクトの名前が面白い:Madam La Maire, J’ai Une Idee(知事さん、私はアイデアを持っています!)。レイキャヴィークの方は、Better Reykjavik(より良いレイキャヴィークをつくろう!)である。どちらもネットでつながった社会で市民の直接の参政権の可能性を探っている。

ダウンロード (1)

パリの場合は、2014年から開始した6年間の長期プロジェクトで5億ユーロ(約675億円)の予算を割り当てている。現在までに5000を超えるアイデアが寄せられている。因みに今までで最も人気が高かったアイデアは市内41カ所の建物の壁を使った垂直ガーデン(Veriticle Garden、右の写真)で、市民から21,000票を得て、2百万ユーロ(約2億7千万円)の予算が投入され実現している。

予算の配分の仕方もユニークだ。パリを20の区画に分け、郊外の貧しい地域には、市内中心地より15倍の予算が振り分けられており、社会的弱者への配慮に重点を置いたものとなっているが特徴的だ。

Madam La Maire, J’ai Une Ideeのホームページはこちら

Betri Reykjavík   þín rödd í ráðum borgarinnar

レイキャヴィークの場合は、ホームページに市民がアイデアを投稿すると、市民の関心の高いアイデアについては議会で取り上げ、予算を振り分けるかどうかを議論する。既に200近くのアイデアが採用され、1.9百万ユーロ(約2億6千万円)の予算がつけられたという。

Better Reykjavikのホームページはこちら

ホームページを見ると市民と市の行政が丁寧に一つ一つを吟味している様子がわかる。あるアイデアが投稿されるとまず市民がネット上で賛否を議論する。例えば、学校にもっと創造的なカリキュラムを導入すべきだと言う意見を出す人がいれば、それに対して賛否が出される。Nestaの記事によれば、市民の60%が一度はこの議論に参加しているという。

関心が高いアイデアに関しては、市議会の委員会に議事として採択される。そこでの議論などは議事録という形で市民に公開され、アイデアを実施するとなれば、予算がつけられる。自転車にやさしい街づくり、ファミリーパーク前へのバス停留所の新設など、多種多様な意見が出ていて、市民のニーズを汲み取ることに役に立っていることがわかる。

レイキャヴィークの市民参加のためのホームページは、Your Prioritiesというオープンソースのプラットフォームで開発され、運営されている。市民が直接アイデアを出し、優先度をつけ、何を採択するかを決めるためのプラットフォームを提供しており、無料で世界中の行政府や団体が利用できる。エストニアでも導入され、5万人の市民によって2000のアイデアが寄せられ、その内15件のアイデアが議会で採択され、7件が既に法制化したという。

人々のニーズに照らして考えるとき、市民の政治への直接参加は大事なアジェンダになる。市民の声をより良く聞き、市政に生かすためのツールとして、こうしたプラットフォームは今後も増え、市民の市政への直接参加の流れは加速するであろう。スマートシティは、市民による意思決定の仕方に、大きな変革をもたらすことにある。技術のイノベーションが進むにつれ、私たちはおそらく未曾有の大衆政治の時代を迎えることが予想される。そのメリットとリスクを見極めていくことが、未来を創る私たちに問われている。

【スマートシティ】スマートな歩行者のための標識が「歩く街」をつくる

Walk-Your-City-560x276

 スマートシティのあり方を考える

Nestaがスマートシティのあり方を考える新しいレポートを出している。本レポートでは、スマートシティの歴史とこれまでの事例を概観しながら、これからのトレンドとしてCollaborative Technologies(市民協調的技術)のコンセプトを紹介している。

スマートシティには、国や行政がトップダウンで決定し、高いコストをかけて推進するプロジェクトが多く、コストに見合う効果を出せない事例も少なからずある。また、ハードウェアの技術に重点が置かれる傾向があり、ともすれば実際の市民のニーズを見落とすこともある。今、世界で広がりつつあるのは、市民側からのイニシアチブでスマートシティをつくろうとする動きで、そのキーワードは「協調」「オープン」「ボトムアップ」であるという。

このレポートで紹介している事例を、これからSPEでシリーズで紹介する。次世代のスマートシティのあり方について考える参考になればと思う。

「歩く」を促す街づくり

単純なアイデアが街を大きく変えることもある。そのことを考えさせてくれるのがアメリカのWalk [Your City]である。

日本では街を歩くことは普通であるが、アメリカや新興国などでは車社会が中心で、歩くことは二次的とも言えるのが実情だ。道路の標識は、基本的に自動車を運転する人の為に設置されていることがほとんどである。速度制限や駐車禁止などもそうであるが、行き先を示す標識も「◯◯まで3Km」という示し方で、自動車での移動を前提にしている。歩行者への配慮はあまりない。

Walk [Your City]は、その状況を「◯◯まで徒歩5分」といった歩行者のための標識を電柱などに括り付けて、歩きやすい街づくりをしようとする実にシンプルなアイデアだ。標識には、QRコードがあり、スマホなどで自分の位置や近隣の情報も得られるようになっている。

アイデアそのものは、あるいは画期的ではないかもしれない。画期的なのは、これを市民の側で自発的に考えて実施されたもので、それが世界中に広がるムーブメントとして広がったことだ。

行政が歩行者のための標識を街に設置することはある。しかし、それを実現するためには多くの手続きと高いコストがかかるのが通常だ。Walk [Your City]は、ビラを貼るのと同じ感覚で歩行者のための標識づくりを一夜で、低コストで実現してみせた。そしてこれを世界に広めたのはSNSによるソーシャル・メディアである。Walk [Your City]は、個人の実験として始まったが、今は法人化し、オーダーメイドで標識をつくり、発送するビジネスに発展している。

ホームページには、さまざまな都市のケーススタディが掲載されているが、それぞれがクリエイティブな方法で「歩く」街づくりを行っていて、人々のわくわく感が伝わってくる。

Walk [Your City]ホームページはこちら

「協調的な技術」を使う新しいスマートシティは、こうした一般の人々のわくわく感で築かれてくのだろう。目からウロコが落ちる思いである。

【ビジネスモデル】激変する社会で生き残るための新しい「戦略」のつくりかた

photo_23951_20130324

「戦略」や「計画」の新しい方法論

「戦略」という言葉は、もともと軍事用語であった。クラウゼビッツの「戦争論」での議論が特に有名だ。戦略(あるいはそれに基いた計画)は、軍事的な用途だけでなく、いまやあらゆる分野で使われている。多くの企業や団体において中長期の戦略が練られ、計画が立てられている。「計画とおりに」という言葉は、ものごとが順調に進んでいることを示す、わかりやすい表現である。

しかし、昔ながらの戦略や計画づくりに対して、今、見直しの機運が高まっている。伝統的な戦略や計画は、諸条件が大きく変化しないことを前提につくられているが、現代のようにあらゆるものが変化し、また変化の予測が極めて困難な時代にあって「変化しない」ことを前提に戦略や計画を立てることは、まったく意味をなさなくなってきているからだ。

変化に対応する新しい「戦略」はいかにあるべきか。

ベンチャーの世界では「リーン・スタートアップ」という方法が紹介され、広まっている。効果を試すための最低限のリソースを投入し、短いPDCAのサイクルを繰り返す。市場の反応を分析し、効率的に製品・サービスの改善を図り、市場の反応次第では「ピボット」と呼ばれる大幅な作戦変更も辞さない。変化と不確定を前提とし、あいまいで見通しがつかない社会で、目標に向かって生き残るための方法を示している。

リーン・スタートアップ

リーン・スタートアップ

posted with amazlet at 15.07.21
エリック・リース
日経BP社
売り上げランキング: 3,508

少し古い記事になるが、Stanford Social Innovation Reviewでは、非営利団体の戦略的計画について、Monitor InstitutionのDana O’Donovan/COOとNoah Rimland Flowerが主張する新しい戦略づくりの方法論が紹介されている。

The Strategic Plan is Dead. Long Live Strategy./ Stanford Social Innovation Review Jan 10, 2013

新しい戦略づくりは、以下の3つの点で伝統的な戦略の方法論を置き換えていく必要があるとする。なかでも「データ収集」から「パターン認識へ」という点が興味深い。

classic_adaptive_strategy-new

「予測(Prediction)」→「実験(Experiment)」

「トップダウン」→「チーム全体での意思決定」

上の2つは比較的イメージが湧きやすいが、「パターン認識」とは何であろうか。

「パターン認識」とは、

自然情報処理のひとつ。 画像・音声などの雑多な情報を含むデータの中から、意味を持つ対象を選別して取り出す処理である。 音声データから人間の声を認識して取り出し命令として解釈する音声認識、画像データの中から文字を認識してテキストデータに変換する(OCR)、大量の文書情報の中から、特定のキーワードを認識して文書の検索を実施する全文検索システム、などの技術がこのパターン認識に含まれる。(Wikipediaより抜粋)

著者のいう「パターン認識」とは、洪水のように溢れる大量のデータなかで「意味を持つ対象を選別して取り出す」ことに重点をおく手法という意味であろう。しかし、その方法論や実際に選別された意味を持つ対象をどう処理するかは、記事でも分からずもっと研究が必要だ。

また、変化を続ける環境の中で大事なことは、以下の自問自答を繰り返すことであるという。大きなビジョンを考え、攻めるべき分野や方法論について議論し、最後に保有しているリソースを見極める。そこで得た答えを手がかりに、更に自問自答をくりかえす。いったりきたりしながら方向性を見定め、継続的に調整を行う手法である。

2012.12.06_Adaptive_strategy_post_-_Choice_Cascade_illustration

この方法で大事なことは(ここが一番難しいところでもあると思うが)、このサイクルを継続的に回転させるモチベーションや仕組みをいかにして築くかであろう。特に、目先で成功している時に、この問いを真摯な態度で組織が自己に発し、見直していくことは見かけほどはやさしくないはずだ。

社会は激動を続けているが、私個人のレベルでは「現状を維持したい」という根強い感覚(無意識的であっても)がある。私たちは「発明は必要の母なり」という言葉の深い意味を考えなければならないだろう。