【ソーシャル】アメリカで注目!コミュニティでつくる健康という考え方

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Well Beingを作り出す人とコミュニティのあり方

人が健康であるとはどういうことであろうか。ランニングをして体を鍛えることなのか。新しい医術や薬の発明であろうか。今、アメリカで健康に生きることの意味を問い直し、人とコミュニティの新しいあり方を議論する動きが進んでおり、スタンフォード・ソーシャル・イノベーション・レビューのCommunities Creating Healthと題するブログ・シリーズのなかで、さまざまな研究者や実践者の意見が投稿されているので紹介致したい。

それぞれのコメントのテーマや背景は異なるが、底辺に流れる問題意識や主張は共通しているー今の医療制度は、「病の治療」や「肉体的な健康の促進」というような狭い範囲でしか健康を考えない傾向が強いが、もっと広い意味での「well being(人間的に豊かな生活)」を実現するための方法を考えるべきであり、その鍵となる「コミュニティ」の役割を重視すべきだという主張だ。

全部で19の投稿が掲載されているが、個人の本当の幸せとは何かという観点から議論する人もいれば、現状の医療費用の高騰や国家財政の観点から意見を述べる人もいる。また、そもそもコミュニティの地域や構成員の多様性からコミュニティの定義について論じる研究者もいる。

Communities Creating Health: An Introduction(コミュニティのつくる健康:序論)

What is Community Anyway?(コミュニティって何だろう?)

Investing in Community-led Health(コミュニティがつくる健康づくりに投資しよう)

全体として論理的にあいまいで具体性に欠ける印象も受けるが、社会の構造が大きく変化し、人と人との結びつきが希薄化するなかで、高齢化する社会をサステナブルなものにしていくための課題を提起し、コミュニティの果たしうる役割を見直そうとする意見は傾聴に値する。

「コミュニティ」といっても、もはや私たちは「古き良き時代」に戻ることはできない。かといって、今の社会や人々の生活のあり方をそのまま続けることもできない。新しい価値観と人口構造、ますます多様化する人と人とのつながり方を踏まえ、21世紀の「Well Being」を模索することが求められている。

パラダイムチェンジを迎える途上国の水支援

社会起業家への熱い期待

WHOとUNICEFが先頃公表したレポートによれば、現在、世界の91%の人々に安全な飲み水が供給されているという。1990年時点では世界人口のわずか76%にすぎず、この25年間で大きく改善した。安全な飲み水にアクセスできない国民が50%を超える国は1990年には23カ国あったが、現在では3カ国に減少している。

Progress on Sanitation and Drinking Water-2015 Update and MDG Assessment

しかし、今でも6億6千万人の人々がいまだに安全な飲み水にアクセスがないという。これはアフリカのサブサハラと南アジア地域の国々に集中していて状況はなかなか改善しない。

水道設備などの大型インフラが整っていないところでは、従来、井戸の掘ることが奨励されたが、一旦掘られた井戸はメンテナンスが行き届かず、数年して使えなくなるケースが多い。井戸を管理し長く使えるようにするには、管理する技術とモチベーションを持つ人が必要だが、日々の運営を国際機関やNGOが継続的に行うのは難しい。現地の人々も「援助慣れ」してしまい、自力で管理しようとするモチベーションも低い。

そこで今注目されているのが社会起業家だ。世界でユニークな取り組みが試みられている。

例えばインドのNextDropは水道局による水の配給時間を携帯電話のSMSで近隣に伝えるというサービスを行っている。インドの都市では水道局による水の配給の時間と量が不安定だ。日によって配給の時間が変わり、多くの人々(特に女性)が時間を無駄にしている(タイミングを間違えると水を受け取れない)。一定の手数料で配給情報を送るサービスは好評で、ユーザが増えているという。狙いはこうして集めた人々のデータだが、面白い試みだ。

NetDrop Uses Big Data, Texting to Improve Water Distribution

国際的なNGOであるWaterAidはWater Kiosk(水キオスク)なるモデルを試している。地元の社会起業家と組み、プリペイドサービスで水の供給が受けられるシステムだ。マラウイ、ウガンダ、ケニア、カンボジアなどで試験的にスタートしている。携帯電話のプリペイドのチケットを買うように、水のチケットを買う仕組みである。

WaterAidのWater Kioskの模様(Youtube)

まだ動きとしては小さいが、ユニリーバもOxfamと共同で、2014年12月にナイジェリアの都市内に2つの水供給センターを設け、地元の起業家に運営を任せている。NGOであるOxfamも、従来の援助に偏った支援の方法を、今後は市場への投資(Cash in Market)という方法へ重点を置いていくことを考えているという。

変化の意味するところ

こうした世界の動きから何が見えるだろう。ひとつには安全な飲み水のような社会課題へのアプローチが、画期的な道具や製品の創出という次元から、「オペレーションのイノベーション」に重点がシフトしてきていることだ。

それは部品としてのソリューションではなく、広い意味でのシステムとしてのソリューションに移行してきている兆候が見える。そこから生まれる付加価値を持続可能なエンジンに仕立てる戦略である。NextDropが水配給の情報を伝えるという単純なサービスから、じつはユーザの基本的な生活にかかわる情報を集め、より大きな付加価値のあるソリューションを提供しようとしているのはその典型だ。

また、援助機関のハンズオンに関する認識が変わってきてようにも思える。従来のハンズオンは「できるものができないもののためにやってあげている」という図式があり、そこに無理もあって持続しないケースが多かった。今は援助側も、できないことはできないと明確に割り切り、できないところをどのように地元のNGOや社会起業家と役割分担するかというところに、重点を置き換えているように見える。NGOや外部パートナーとのコラボレーションは今に始まったことではないが、持続的な運営の責任とリターンに対する厳密な議論が必要になってきているようだ。

このパラダイムの変化は、今後5年〜10年の間に大きく加速することが予想される。これからのBOPビジネスを考えていく上で無視できない兆候だ。

書籍紹介:善意で貧困はなくせるかー貧乏人の行動経済学

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「貧困解消の方法」を評価する方法

困っている人がいれば助けたいという善意の気持ちを誰しもが持っている。しかし、貧困という一見単純に見える問題が、実はロケット打ち上げにもまさる複雑さをもっていると知るとき、私たちは善意だけでは打ち勝てないことに思い至る。具体的な問題を冷徹に分析し、戦略性を持つことが必要となるのだ。本書がテーマとするのは、問題の本質を理解し戦略を評価するための、行動経済学に基づく新しいアプローチである。

著者は開発の分野でよく引き合いに出される「魚を与えればその人は一日食べられる。魚のつり方を教えれば一生食べられる」という中国のことわざを疑問視する。確かにわかりやすい言葉だが、あまりに単純化しすぎて、本質を見えなくしているのではないだろうか。何よりも上からの目線で、顔の見えない支援になっていると筆者は指摘する。

貧困を解決したいなら、それがどういうことなのかを抽象的な言葉でなく、現実として知る必要がある。どんな匂い、どんな味、どんな手触りかを知る必要がある。

この現実を捉えるツールとして採用されているのが「ランダム化比較試験(RCT)」という方法である。この方法そのものは新しいものでは全くないが、開発の分野にRCTを持ち込んで、貧困解消のためのさまざまなプロジェクトやプログラムを、具体的な裨益者レベルにおいて厳密に評価できるようにしたことは画期的であった。

例えばマイクロファイナンスは、グラミン銀行のユヌス博士を筆頭に、具体的な実践の積み重ねによってつくられた仕組みである。グループ貸し付けのような独特の方法論が、成功モデルとして全世界に広まったが、その成功要因や課題を厳密に分析・評価されることなく、本質的なところは良く知られていなかった。そこに著者の研究グループはRCTを適用してマイクロファイナンスの本質を浮き彫りにしていく。その手法は、推理小説を読むようであり、人間の顔が見えてくる。

本書では農業、教育、ヘルスケアとなど、多岐にわたる分野のプロジェクトをRCTで分析・評価している。どれも問題の所在を明らかにし、特定の方法論の意義と課題を明確にしようとする。読者はそこに新しい視点を見いだし、課題のなかに機会も見えることに気付くだろう。社会と人間の謎解き本としても面白く読める。

善意で貧困はなくせるのか?―― 貧乏人の行動経済学
ディーン・カーラン ジェイコブ・アペル
みすず書房
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リーンではじめるソーシャルビジネス!

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未知なる世界を切り拓くための歩き方

スタンフォード・ソーシャル・イノベーション・レビューのレポート「The Promise of Lean Experimentation(リーン方式を試して見えてくるもの)」が面白い。筆者も途上国の未知なる世界でソーシャル・エンタープライズを立ち上げてきたが、混沌の中から見えてくる機会をいかに把握し、継続的なビジネスを構築すべきか、大いに悩み、たくさんの失敗を重ねてきた。ここで著者のPeter MurrayとSteve Maが提案しているのは、営利目的のベンチャー企業や大会社の新規事業において注目されているリーン方式を非営利やソーシャルビジネスでも応用すべきというものだ。

例えばアフリカで児童にデジタルブックを配信するWorldreaderの事例。とかく大きなビジョンを描き、詳細は計画を立てて、実行にあたるものだが、Worldreaderの考えは全く逆で、まずは最小限のテストを行うことにこだわる。そこから得られた知見を生かしながら改善を少しずつおこない、時には思い切って根本的に方向性を見直す。この小さな繰り返しで、リスクを最小限に抑えながら、未知なる世界を開拓し、ビジネスを組み立てていく。いまや毎月18万5千人のユーザがWorldreaderのサービスを利用しているという。

http://www.worldreader.org/

著者は、簡単にはいかない現状も指摘する。ドナーは相変わらず「計画と実行」を基準にプロジェクトを評価しているので、しっかりした計画もない中で「実験」ばかりを繰り返すリーン方式はすんなりとは理解されない。プロジェクトの途中で計画を変更することは受け入れがたいと考えているドナーも多い。

いずれにせよ、未知な世界を切り拓くための有効な方法論には違いない。是非興味ある人は一読あれ。

The promise of lean experimentation (Stanford Social Innovation Review June 2015)

途上国でオンライン・ビジネスを展開する方法!

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先進国で成功したオンライン・ビジネスを途上国へ展開するためには何が重要か?

ハーバード・ビジネス・スクールのウィリアム・カール教授は「オフラインの要素が最も大事となる」と説明する。オンライン・ビジネスで「オフラインが大事」とは意外に思えるかもしれないが、それぞれの国の独特の文化、システム、規制などの課題を乗り越えることが一番重要だと教授は協調する。ビジネスモデルの複製はローカル化が成否を握るのだ。

現地独特の文化や参入障壁はリスクであると同時に機会であり、ローカル化の壁は、乗り越えれば自らのビジネスを守る城壁にもなる。

カール教授が指摘する異国でのオンライン・ビジネス成功の要点は以下の3つ。

・参入障壁を自分の味方に付けよう
・モデルの中身は大きく変わることを覚悟すること
・現地で機能している独特のネットワークに注意を払うこと

オンライン・ビジネスの可能性は途上国で大きく広がりつつある。新しいフロンティアを目指す者はカール教授の指摘に耳を傾けてみよう。

How local context shapes digital business abroad (Harvard Business Review)