【生態系】海の生物の大幅な減少が問いかけるもの

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WWFホームページより転載

海の生物が過去40年で半減:WWF報告

世界自然保護基金(World Wildlife Fund、WWF)が昨日発表したLiving Blue Planet Report: Species, Habitats and Human Well-beingによれば、全世界の海の生物数は1970年から現在までの40年間で半減したという。これは海に生息する1,234種5,829個体群(哺乳類、鳥、爬虫類、魚)の動向を分析した結果で、多くの生物がその数を減らしている上に、絶滅の恐れのある種が増えているという。

これほど多くの生物数が減少した原因は、人間の営みにある。報告書によれば、過剰な漁獲、環境汚染、地球の温暖化などが複合的に絡まって生態系を破壊しており、生態系を育み守ってきたサンゴ礁や海藻も急速に失われつつあると分析している。

無尽蔵と思われていた海の生物資源が半減したということは、ただごとではない。人類は何十億年とかけて地球が育んできた海の生物をたった40年で半分も食い尽くしたのだ。漁業に頼る人々の生活が脅かされ、安定的な食料供給源を失うことは人口増加が続く未来に影を落とす。生態系の破壊は、海の浄化作用の悪化や、地球温暖化のさらなる加速にもつながっていく。海という巨大な生態系の損失が引き起こす破壊の連鎖は、計り知れない。

関心をもつという抵抗

しかし、より本質的な問題は、自然環境やエコロジーの破壊といった危機に対して、人類がそれを解決する有効な手法を見いだせていないということではないか。私たちは、自然の治癒力をはるかに上まわる破壊力を自らつくりあげながら、その無軌道な暴走をコントロールすることができずにいる。ありあまるほどの情報を手にしていながら、破壊に加担しているという明確な意識さえ持てない。世界はクジラの捕獲には声高に反対するけれども、その他の海洋生物については目に入らない。サメやナマコの激減に誰が関心を持つだろうか。

こうした破壊の力は、私たちの無関心を糧に勢いを増してきているように思う。無関心こそが、破壊力に栄養を与えているのだ。性急な答えを見出そうとすることは無理であろうし、そうすべきでもないと思う。しかし関心をもつことで、ちょっとは抵抗できるかもしれない。これは今の世代に生きるものとして、せめてもの罪滅ぼしでもある。

【スマートシティ】民主主義の未来?!パリとアイスランドの事例

Accueil   Madame la maire

「スマートシティ型」民主主義のパイロット

ネット社会が普及し、IoTの環境が成長する中で、民主主義の形は変化するであろうか。そのことを考えるヒントとなる試みが、パリやレイキャヴィーク(アイスランドの首都)で行われている。市民がネットを通じて公共事業の提案を行い、投票し、予算の使い方を決めていく。

パリのプロジェクトの名前が面白い:Madam La Maire, J’ai Une Idee(知事さん、私はアイデアを持っています!)。レイキャヴィークの方は、Better Reykjavik(より良いレイキャヴィークをつくろう!)である。どちらもネットでつながった社会で市民の直接の参政権の可能性を探っている。

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パリの場合は、2014年から開始した6年間の長期プロジェクトで5億ユーロ(約675億円)の予算を割り当てている。現在までに5000を超えるアイデアが寄せられている。因みに今までで最も人気が高かったアイデアは市内41カ所の建物の壁を使った垂直ガーデン(Veriticle Garden、右の写真)で、市民から21,000票を得て、2百万ユーロ(約2億7千万円)の予算が投入され実現している。

予算の配分の仕方もユニークだ。パリを20の区画に分け、郊外の貧しい地域には、市内中心地より15倍の予算が振り分けられており、社会的弱者への配慮に重点を置いたものとなっているが特徴的だ。

Madam La Maire, J’ai Une Ideeのホームページはこちら

Betri Reykjavík   þín rödd í ráðum borgarinnar

レイキャヴィークの場合は、ホームページに市民がアイデアを投稿すると、市民の関心の高いアイデアについては議会で取り上げ、予算を振り分けるかどうかを議論する。既に200近くのアイデアが採用され、1.9百万ユーロ(約2億6千万円)の予算がつけられたという。

Better Reykjavikのホームページはこちら

ホームページを見ると市民と市の行政が丁寧に一つ一つを吟味している様子がわかる。あるアイデアが投稿されるとまず市民がネット上で賛否を議論する。例えば、学校にもっと創造的なカリキュラムを導入すべきだと言う意見を出す人がいれば、それに対して賛否が出される。Nestaの記事によれば、市民の60%が一度はこの議論に参加しているという。

関心が高いアイデアに関しては、市議会の委員会に議事として採択される。そこでの議論などは議事録という形で市民に公開され、アイデアを実施するとなれば、予算がつけられる。自転車にやさしい街づくり、ファミリーパーク前へのバス停留所の新設など、多種多様な意見が出ていて、市民のニーズを汲み取ることに役に立っていることがわかる。

レイキャヴィークの市民参加のためのホームページは、Your Prioritiesというオープンソースのプラットフォームで開発され、運営されている。市民が直接アイデアを出し、優先度をつけ、何を採択するかを決めるためのプラットフォームを提供しており、無料で世界中の行政府や団体が利用できる。エストニアでも導入され、5万人の市民によって2000のアイデアが寄せられ、その内15件のアイデアが議会で採択され、7件が既に法制化したという。

人々のニーズに照らして考えるとき、市民の政治への直接参加は大事なアジェンダになる。市民の声をより良く聞き、市政に生かすためのツールとして、こうしたプラットフォームは今後も増え、市民の市政への直接参加の流れは加速するであろう。スマートシティは、市民による意思決定の仕方に、大きな変革をもたらすことにある。技術のイノベーションが進むにつれ、私たちはおそらく未曾有の大衆政治の時代を迎えることが予想される。そのメリットとリスクを見極めていくことが、未来を創る私たちに問われている。

【スマートシティ】スマートな歩行者のための標識が「歩く街」をつくる

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 スマートシティのあり方を考える

Nestaがスマートシティのあり方を考える新しいレポートを出している。本レポートでは、スマートシティの歴史とこれまでの事例を概観しながら、これからのトレンドとしてCollaborative Technologies(市民協調的技術)のコンセプトを紹介している。

スマートシティには、国や行政がトップダウンで決定し、高いコストをかけて推進するプロジェクトが多く、コストに見合う効果を出せない事例も少なからずある。また、ハードウェアの技術に重点が置かれる傾向があり、ともすれば実際の市民のニーズを見落とすこともある。今、世界で広がりつつあるのは、市民側からのイニシアチブでスマートシティをつくろうとする動きで、そのキーワードは「協調」「オープン」「ボトムアップ」であるという。

このレポートで紹介している事例を、これからSPEでシリーズで紹介する。次世代のスマートシティのあり方について考える参考になればと思う。

「歩く」を促す街づくり

単純なアイデアが街を大きく変えることもある。そのことを考えさせてくれるのがアメリカのWalk [Your City]である。

日本では街を歩くことは普通であるが、アメリカや新興国などでは車社会が中心で、歩くことは二次的とも言えるのが実情だ。道路の標識は、基本的に自動車を運転する人の為に設置されていることがほとんどである。速度制限や駐車禁止などもそうであるが、行き先を示す標識も「◯◯まで3Km」という示し方で、自動車での移動を前提にしている。歩行者への配慮はあまりない。

Walk [Your City]は、その状況を「◯◯まで徒歩5分」といった歩行者のための標識を電柱などに括り付けて、歩きやすい街づくりをしようとする実にシンプルなアイデアだ。標識には、QRコードがあり、スマホなどで自分の位置や近隣の情報も得られるようになっている。

アイデアそのものは、あるいは画期的ではないかもしれない。画期的なのは、これを市民の側で自発的に考えて実施されたもので、それが世界中に広がるムーブメントとして広がったことだ。

行政が歩行者のための標識を街に設置することはある。しかし、それを実現するためには多くの手続きと高いコストがかかるのが通常だ。Walk [Your City]は、ビラを貼るのと同じ感覚で歩行者のための標識づくりを一夜で、低コストで実現してみせた。そしてこれを世界に広めたのはSNSによるソーシャル・メディアである。Walk [Your City]は、個人の実験として始まったが、今は法人化し、オーダーメイドで標識をつくり、発送するビジネスに発展している。

ホームページには、さまざまな都市のケーススタディが掲載されているが、それぞれがクリエイティブな方法で「歩く」街づくりを行っていて、人々のわくわく感が伝わってくる。

Walk [Your City]ホームページはこちら

「協調的な技術」を使う新しいスマートシティは、こうした一般の人々のわくわく感で築かれてくのだろう。目からウロコが落ちる思いである。

【ソーシャル】データ・フィランソロピィで社会に貢献!

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ロイヤルティ・プログラム(優良顧客に対して特典を提供するプログラム)の世界的リーダーであるAimia社は、保有している顧客のロイヤルティに関する専門知識と世界中の人材や経験を生かして、非営利団体の経営改善に役立つ社会貢献を行っている。

非営利団体の持つデータを解析し、より良い事業活動の提案を行うことで、社会課題の解決に貢献することが目的だ。これを「データ・フィランソロピィ」と呼んでいる。この活動は、今年のThe Guardian Sustainable Business Award の社会インパクト部門で大賞を受賞し、The Guardian紙に関連記事が掲載されているのでご紹介したい。

始まったのはイギリスからだ。Aimia社の傘下にあるNectar社(イギリスのロイヤリティ・プログラムのトップ企業)が取り組んでいる。同社のデータ分析の専門家達がプロボノで働き、過去2年間でのべ15,000時間を費やし、50以上のチャリティ団体を支援。また活動資金として250万ポンド(約5億円弱)の調達にも成功しているとのこと。

例えば、若いホームレスを支援する非営利団体に対しては、12ヶ月のプロジェクトに40人の専門家が参加し、ホームレスの若者に関するデータを解析。ホームレスを支援するプログラムの有効性について分析・評価し、より効果的な介入(intervention)を提案している。

若者のスポーツ振興を行う非営利団体では、コーチの働く仕事の30%が情報整理のためのデスクワークであることが判明。タブレットなどを活用した効率的な情報収集のシステムづくりに取り組み、コーチがもっと多くの時間を子供たちに充てられるように改善した。

本活動の対象となるのは、データ分析に必要な情報量を保有している比較的大きな非営利団体に限られるが、せっかく蓄積した大量のデータを十分に生かせない団体においては、組織の効率化や有効なプログラムの企画・評価という点で、大きな成果を生み出す可能性がある。

またこれは一方的な慈善活動ではなく、Aimia社にとっても、会社の信用を高め、従業員の経験と訓練の機会ともなり、企業としてのメリットも大きいという。

現在、イギリス以外にもアメリカ、オーストラリア、カナダと活動を広げており、今後は更に拡大する方針とのこと。「データ・フィランソロピィ」というビジネスと社会貢献のベクトルが一致するこのモデルには、サステナブルな社会を構築するための大切なヒントが含まれているように思われる。

Aimia Harnesses the Power of Data Insight for Social Good/The Guardian

【ソーシャル】アメリカで注目!コミュニティでつくる健康という考え方

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Well Beingを作り出す人とコミュニティのあり方

人が健康であるとはどういうことであろうか。ランニングをして体を鍛えることなのか。新しい医術や薬の発明であろうか。今、アメリカで健康に生きることの意味を問い直し、人とコミュニティの新しいあり方を議論する動きが進んでおり、スタンフォード・ソーシャル・イノベーション・レビューのCommunities Creating Healthと題するブログ・シリーズのなかで、さまざまな研究者や実践者の意見が投稿されているので紹介致したい。

それぞれのコメントのテーマや背景は異なるが、底辺に流れる問題意識や主張は共通しているー今の医療制度は、「病の治療」や「肉体的な健康の促進」というような狭い範囲でしか健康を考えない傾向が強いが、もっと広い意味での「well being(人間的に豊かな生活)」を実現するための方法を考えるべきであり、その鍵となる「コミュニティ」の役割を重視すべきだという主張だ。

全部で19の投稿が掲載されているが、個人の本当の幸せとは何かという観点から議論する人もいれば、現状の医療費用の高騰や国家財政の観点から意見を述べる人もいる。また、そもそもコミュニティの地域や構成員の多様性からコミュニティの定義について論じる研究者もいる。

Communities Creating Health: An Introduction(コミュニティのつくる健康:序論)

What is Community Anyway?(コミュニティって何だろう?)

Investing in Community-led Health(コミュニティがつくる健康づくりに投資しよう)

全体として論理的にあいまいで具体性に欠ける印象も受けるが、社会の構造が大きく変化し、人と人との結びつきが希薄化するなかで、高齢化する社会をサステナブルなものにしていくための課題を提起し、コミュニティの果たしうる役割を見直そうとする意見は傾聴に値する。

「コミュニティ」といっても、もはや私たちは「古き良き時代」に戻ることはできない。かといって、今の社会や人々の生活のあり方をそのまま続けることもできない。新しい価値観と人口構造、ますます多様化する人と人とのつながり方を踏まえ、21世紀の「Well Being」を模索することが求められている。

イギリスの認知症フレンドリーなビジネス環境づくり

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認知症にやさしいビジネス環境づくり

高齢化社会を迎えようとしているイギリスでは、ビジネスシーンにおいても認知症とその介護に関わる家族にやさしい環境づくりに取り組むところが出てきている。

アルツハイマーズ・ソサエティ(Alzheimer’s Society)が主催する認知症アクション・アライアンス(Dementia Action Alliance)では、2015年5月にリバプールで全国初めての「認知症にやさしいビジネス(Dementia Friendly Businesses Event)」を開催している。これはリバプール市の経営者を対象に、認知症の方々にやさしい環境がいかにビジネスの発展に役立つかというテーマで講演やワークショップが行われたものだ。

認知症を理解することで、より良い顧客サービスが可能になるとワークショップでは訴える。店頭でどう認知症の顧客に対するかというサービス事業者の役に立つだけではなく、例えば不動産開発事業者が、いかに認知症の家族を持つ家庭が生活しやすい街や建物をつくっていけるか、考えるきっかけにもなるという。

認知症という個人や家族の課題を、どう社会が受けて止めて「自然」な環境づくりをしていくか。福祉やボランティアという観点だけではなく、ビジネスの視点からも環境づくりに取り組むアプローチは合理的であり、必要だと感じる。

The Guardian紙の記事はこちら(Businesses Ignore the Dementia Time-bomb at Their Peril)。記事の題名の意訳は「経営者よ、認知症を無視するのは致命的なリスクです!」。

イギリスのBuy Socialキャンペーン

Social Enterprise UKのホームページより転載

Eat me, Drink me, Wear me, Buy me: Social Enterprise UKのホームページより転載

イギリスのソーシャル・エンタープライズ普及法

イギリスは、国の政策として社会起業家(ソーシャル・エンタープライズ)を推進していて、その着実な広がりは地に足の着いたもののように見える。当然、無数の試行錯誤を日々繰り返してきて、今に至ったものに違いないが、そのアプローチが戦略的で実務的なところがお国柄を感じさせる。

例えばソーシャル・エンタープライズの普及と支援を行っているSocial Enterprise UKは、社会起業家の「業界団体」のような存在だが、その主要な活動は政府へのロビー活動であり、政策提言とソーシャル・エンタープライズのアジェンダを政策の優先事項に上げるためのキャンペーン活動を中心に活動を展開している。メンバーを動員して政治的な力を増し、社会起業家の利益代表として国に働きかける姿勢は、日本ではまだ見られない動きだ。

Social Enterprise UKのホームページ

その数あるキャンペーンの中に、2012年から始まったBuy Socialキャンペーンがある。これは一般の民間企業と消費者の購買活動をソーシャル・エンタープライズに結びつけることを狙いにしており、企業の仕入れ調達のサプライチェーンのなかに、ソーシャル・エンタープライズを組み込むことで「企業の社会的な価値も上げよう」というキャンペーンである。

Buy Social キャンペーンの動画

すごいなと思うのは、こうしたキャンペーンの厚みである。ソーシャル・エンタープライズのデータベースつくって公開し、企業の調達規則のドラフトまで用意する。「これでもか」と様々な施策を畳み掛ける。こうした施策が全て成果を出している訳ではないだろうが、その重厚さは見習いたい。

日本でのソーシャルな動きは、ビジネスコンテストが花盛りでイベント的なものが多いように感じるが、本当に社会を変えるには、多くの人々を動員する戦略性と実務能力も必要になってくると思われる。