【イノベーション】1ドル眼鏡から見える光景

Onedollarglassesのホームページページから転載

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シンプルさを追求したモデル

ドイツのOneDollarsGlasses Association(1ドル眼鏡協会)は、2012年に設立され、途上国の1億5千万人と言われる視力障害の人々に安価で質のいい眼鏡を提供することを目的に、世界9カ国で活動を展開している。スチールでできた眼鏡のフレームを現地で簡単に加工できるキットを提供し、度数に応じたレンズをはめ込むことで、原価を1ドルにおさえた眼鏡を生産できるモデルを考案した。

できるかぎり部品数を減らし、なおかつスタイリッシュなデザインを維持するため、創業者のMartin Aufmuth氏は2年近くの研究開発を自力で行い、ウガンダでのテストプロジェクトを皮切りに、事業を拡大してきた。今、活動地域はアフリカ各地、ラテンアメリカ、南アジアにも広がり、シーメンスの財団から”Empowering People Award”を受賞するなど、世界で注目を集めている。

協会の主な活動は、対象国の現地の人々に、1ドル眼鏡を生産するためのトレーニングを施すことと、販売網を開拓するための活動が中心である。また現地の販売員にとって、サステナブルな事業にするため、効率的な生産とバリューチェーン上におけるコストの削減方法についても、研究と開発を進める。

マーケティングについてはシンプル化と効率が重視され、検眼と眼鏡のカスタマイズを一度の訪問で完了できるシステムを考案した。通常であれば販売員は、検眼とカスタマイズされた眼鏡の納品のためにそれぞれ1回、合計2回の訪問が必要であるが、販売員が検眼後に、その場で眼鏡を組み立て、カスタマイズすることで1回の訪問で完了する仕組みになっている。

このモデルの核となっているのは、Bending Machineと呼ばれる眼鏡のフレームの成型器だ。電気も不要で、メンテナンスがほとんど必要なく、簡単な手作業でフレームが成形できる。あとは大量生産されたポリカーボネート製のレンズをはめ込み、顔の形に合わせてカスタマイズするだけである。ドイツ人らしいクラフトマンシップと合理的精神を追求したモデルといえよう。

Onedollarglassesのホームページページから転載

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事業としての持続性がこれからの挑戦

OneDollarGlassesは、2014年度のアニュアル・レポートを発行している。各国での活動の内容が記されており、興味深い。また活動の収支報告書も掲載されており、収入と支出の内訳もディスクローズされている。

収入の大半は寄付金で、総収入70万ユーロ(約1億円)の93%に上る。その他も賞金などが収入源となっており、事業からの収入は非常にわずかだ。一方、支出は人件費、旅費、キャンペーンなどの広告宣伝費が約4分の3を占めている。収支を見る限り、寄付金頼みのNGOと似ているようだ。

こうした事業が、本当の意味でサステナブルといえるようになるためには、おそらく多くのイノベーションを必要とするだろう。「ソーシャル」や「サステナビリティ」という言葉が喧伝され、「ビジネス」や「インベストメント」というコンセプトが加わって新しい道筋が模索されているが、道のりはまだ険しいように感じる。

OneDollarGlassesのような団体にブレークスルーを期待したい。

【イノベーション】海中農園でイチゴ栽培!

The Guardian紙の記事より転載

The Guardian紙の記事より転載

海底で農作物を栽培

巨大なバクテリオファージのような形をして海底に浮かぶ物体は、海中に設置されたグリーンハウスである。SF映画にでも出てくるような光景であるが、この海中農園でレタスやキャペツ、イチゴまで栽培されているのだ。

スイスのスキューバ・ダイビング用品の製造メーカーであるOcean Reef Groupが開発している海中グリーンハウスは、その名も「ニモ・ファーム(Nemo Farm)」。ディズニーのアニメキャラクターに由来しているが、まさに夢のあるプロジェクトである。イタリアの海岸沖100メートルの浅瀬をテストベッドに、2012年より実験が行われてきた。グリーンハウスのそれぞれに栽培用のトレーが8〜10枚置かれ、さまざまな種類の農作物が育てられている。

海中グリーンハウスでは、水耕栽培の技術を活用する。ハウス内で蒸発した海水は、天井で露となり、したたり落ちて作物の水となる。海中の温度は安定しており、天候に左右されず、害虫の心配もない。太陽光は海水で遮られるが、植物の成長で一番大事な赤外線は海中5〜15メートルまでは届くので、浅瀬であれば問題はない。むしろ環境的には地上より早く成長することが、実験で示されているという。ただし課題もある。誰でもすぐにできるわけではなく、熟練したダイバーが運営する必要がある点だ。

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The Guardinan紙の記事によれば、現在、Ocean Reef Groupはプロジェクトを本格的に展開するための資金調達をクラウドファンディングで進めているとのこと。ビジネスサイドからのアプローチもあるようだ。しかし、Ocean Reefは付加価値の高い農産物をつくるようなニッチなビジネスには興味はないという。最終目標は、グローバルな食糧の安定供給に貢献することだ。農作に適した土地や水が少ない中東諸国やモルジブなどで有効に使える技術だと考えているようだ。

既存の農家や海洋環境への影響を心配する人もおり、普及するには多くの課題が残されていると思うが、このようなファンタジックなアイデアに真剣に取り組む人々がいることは、世界に少し明るい日差しが差し込むような思いがする。

The Guardian/ Under the sea: the underwater farms growing basil, strawberries and lettuce/ August 13, 2015

【イノベーション】進化するアフリカのソーラー・システム

Deutsche Welleの記事より転載

Deutsche Welleの記事より転載

資金回収の課題を乗り越えて進む自家用ソーラーシステム

無電化の地域に自家用のソーラー・システムを入れる動きは、バングラデシュなどで広く普及している。バングラデシュでは政府の推進もあり、現在、実に100万世帯がソーラー・ホーム・システムで電化されてる。

このような爆発的な普及が実現した理由は、ソーラー・パネルの値段が劇的に低くなったことや、LED電球のような省エネ家電が普及し小さな発電量でも使い道が画期的に広がったことなどが挙げられるが、最も大きな推進力はファイナンスであろう。低所得者でも手が届くように、分割払いの方法を取り入れ、購入者の初期投資にかかる資金負担を軽減した。毎月の少額返済を1年〜2年続けて完済するとシステムは100%購入者のものになる。こうした仕組みのバックファイナンスを世銀などの国際機関などが政府を通じて支援している。

分割払いの方法は、バングラデシュではマイクロファイナンスの仕組みとネットワークがお膳立てした。現在、バングラデシュで最も販売量多いソーラー・ホーム・システムの会社がグラミンバンクのグループ企業やBRACのグループであることは偶然ではない。

しかし、バングラデシュで成功したこのモデルを、アフリカにそのまま持ち込むことはできない。一番のネックは資金の回収だ。南アジアのような人口密度の高いところでは、資金の回収は人手を使ってきめ細かく行うことができる。1㎢あたり1000人もいれば、1日で多くの顧客を回ることができる。しかし、アフリカではそうはいかない。家と家の間が数キロ離れていることもざらだ。こういうところでは、資金回収にかかるコストが高すぎて採算が合わないのだ。

この課題を解決する糸口を与えたのはモバイルのネットワークとM-Pesaのようなモバイル・ファイナンスの普及だ。アフリカでも、いまやモバイル・ネットワークは広く普及し、どこへ行っても携帯電話は通じるようになっている。また、モバイル・ファイナンスでは、銀行口座を持たなくても携帯電話で資金決済(送金・入金)や貯蓄ができるようになった。こうした新しいインフラが、アフリカの自家用ソーラー・システム(現地ではpico-solar systemと呼ぶ)の普及に新しい推進力をもたらすことになった。

Deutsche Welleの記事より転載

Deutsche Welleの記事より転載

例えば、ケニアをベースにしているM-KOPAやドイツのベンチャーであるMobisolなどである。今、アフリカの東部地域を中心に大きく成長している注目の自家用ソーラー・システムのベンチャー企業である。どちらのモデルも、資金の回収をモバイル・ファイナンスで行っており、顧客との現金のやりとりはなく、資金回収のための人件費が必要ない。これにより大幅なコストダウンを実現し、また資金管理を効率化した。

では未払いとなる顧客への対応はどうするのか。ファイナンスでは、かならず滞納する人々が存在し、その対応に相当の手間とコストが必要となる。両社は販売するシステムのそれぞれにSIMを挿入し、ワイヤレスで1件1件のシステムをセンターで管理できる仕組みを開発し、この最大の問題を解決している。支払いが滞った顧客のシステムは、遠隔から自動的に停止させる。支払いが再開されれば、機能を戻す。これで購入者の返済のモチベーションを上げる仕組みだ。

このワイヤレスの機能は、単なる資金回収以上に効果を発揮している。システムの稼働状況、顧客の電気の利用状況などを把握できるようにして、この情報をマーケティングに有効活用しているのだ。Mobisolの場合、これをベルリンでコントロールしている。世界は、全く新しい次元のビジネスモデルを可能とする時代に入ってきているということだ。

必要は発明の母という古い言葉は、ここにも当てはまる。イノベーションがイノベーションを生み出す循環が、アフリカで始まりつつある。

Powering Developing World with Solar?/Deutsche Welle/July 15, 2015
Solar Energy Lights Up Kenya/Deutsche Welle/July 8, 2015
Solar and Wireless/Deutsche Welle/Jan 28, 2015

【イノベーション】アフリカで進む「次世代型」教育支援ビジネス

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Bridge International Academiesのホームページから転載

途上国の教育支援とデジタルの新しい融合

途上国における教育支援をITを使って支援する試みは、これまで無数にあったが、成功事例は非常に少なかった。例えば、MITのネグロポンテ教授が推進したOLPC(One Laptopp Per Child)の100ドルパソコンが有名である。2005年頃に始まったこのプロジェクトは、小さなパソコンをアフリカ中の学校に配り、子供達の教育を支援するもので、多くのドナーの支援を受けて一世を風靡した。しかし、筆者がルワンダの学校で実際に見てきたところでは、残念ながらそのほとんどが使われておらず、校長室にある金庫に大切に保管されているだけであった。OLPCの活動そのものも、今や聞かなくなっている。

また教室などでパソコンを使い、映像で教育支援を行う仕組みも多く試された。実にたくさんの教育用コンテンツが巨額な資金を使って制作されてきたが、その成果は十分に発揮されたとは言いがたい。

こうした失敗の原因は多々あるが、共通と思われるものをあげると以下の3点となるであろう。1点目は、資金の不足である。小さな規模のプロジェクトが無数に生まれたが、基本的にドナーからの資金に頼っており、プロジェクトが終了すると資金不足に陥り、事業は終了となる。2点目がメンテナンスの難しさである。パソコンやらプロジェクターが故障すると修理できない。そのまま埃をかぶって放置されてしまうのが大半だ。3点目が教師の問題である。いくら立派な機材やコンテンツを渡されても、その利用法について十分な指導やフォローがなければ継続は難しい。

ケニアで始まり、ウガンダにも広がりつつあるBridge International Academiesは、そんな死屍累々の教育支援プロジェクトの欠点を補い、「次世代型」教育支援ビジネスに成功している。すでに12万人の子供たちを教えており、スタッフの数も5000人を超えている。

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Bridge International のユニークな点は、有料でサービスを提供していることだ。もちろん貧困者でも払うことができる少額だが、無料にはしない。授業料を払ってでも受けさせたい授業をつくることで、持続的な運営を目指している。

またコスト削減にも斬新なアイデアを導入している。基本的に一人の担当者が学校を回すシステムで、教師の負担を軽減するため、ITを活用したバックオフィスが全面的にサポートする仕組みとなっている。授業料の計算や回収は、モバイルバンキングで行い、教師が直接現金計算や管理を行うことはない。

さらに教室で教師が教える方法については、手元のタブレットが指導してくれる。簡単な操作で、授業の教え方がわかり、教師が準備する負担を軽くし、標準的な授業がどこでも行えるようにしている。

Bridgeモデルが実現できた背景には、データ通信の普及と低価格化、タブレットのようなデバイスの普及、モバイルバンキングによる少額オンライン決済の仕組みができたことがある。「次世代」教育支援ビジネスは、時代の変化と技術の発展を上手にビジネスモデルに組み込んでいるのだ。

今後は、もっと教師を負担を軽減し、誰でも先生になれるようなシステムが広がるであろう。また子供達の学習を細かくフォローする仕組みによって、効果的な学習管理の研究が進むに違いない。翻って日本の学校や塾の様子を見ると、IT化が遅れており、教師の負担も過剰なままだ。こういうアフリカの技術とコンセプトこそ、リバースエンジニアリングが必要なように思うが、いかがであろうか。

【イノベーション】バイオニック義手の価格破壊!

Photograph: Open Bionics/Open Bionics/The Guardians紙より転載

Photograph: Open Bionics/Open Bionics/The Guardians紙より転載

3Dプリンターでロボット義手を制作

今、世界ではアシスティブ・テクノロジー(Assistive Technology)と言われる障害を持つ人を支援する技術、特にITやロボットの技術を活用するものが徐々に認知度を高め、関心が持たれ始めている。こうした技術には、目の不自由な人のためのコンピュータ画面を読み上げる技術や、ロボット技術を応用した義足や義手などがあり、世界の多くのエンジニアが取り組んでいる。

こうしたアシスティブ・テクノロジーの一つに筋電義手というものがある。これは手を失われた障害者が残された腕の筋肉の電気信号を介し、直感的に操作する義手のことで、すでに製品化され、販売もされている。ビデオなどで操作のデモンストレーションを見てみると、まるで自分の手のように操作していて実に感動的だ。

こうした技術はとても素晴らしいが、課題はコストの高さだ。通常、筋電義手は安くても150万円以上するという。一般の障害者にはとても手が届かない。しかし、あたらしいイノベーションで価格破壊に挑戦する動きが始まっている。

この動きを促進しているのが、3Dプリンターの普及だ。3Dプリンターが一般的に手が届く値段で購入できるようになり、筋電義手を3Dプリンターで製作する技術者が各地に現われてきた。日本ではExiii(イクシー株式会社)という新しいベンチャーが取り組んでいる。3Dプリンターで部品を製造し、大幅に制作コストを削減している上に、部品交換やデザインなどのカスタマイズも可能にしている。

また同様の動きはイギリスのOpen Bionicsでも展開されている。3Dプリンターを活用して作られた筋電義手は、通常4百万円以上のコストがかかる筋電義手を10分の1の約40万円(2000ポンド)で販売でしている。圧倒的な価格破壊である。こちらもカスタマイズができることを売りにしているようだ。

アシスティブ・テクノロジーの普及化を支援する団体も出てきている。例えばグーグルはインパクトチャレンジ/障害者(Impact Challenge/Disabilities)を立ち上げ、革新的な技術で障害者を支援する団体に助成金を出して応援するプログラムを展開している。日本でバイオニック義手の普及に取り組むNPO法人Mission Arm Japanが前出したExiiiと組んで選出されている。

またイギリスのNestaは、Inclusive Technology Prizeを立ち上げ、アシスティブ・テクノロジーのイノベーションに賞金を出している。

こうしたイノベーションがどんどん進み、障害者にとって住みやすい世界に一日も早くなることを願ってやまない。これからの展開に大いに注目だ。

【イノベーション】よいアイデアが普及することの難しさ:空中から二酸化炭素を回収

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良いアイデアと良いビジネスモデルの間にあるギャップ

素晴らしいアイデアは、世界中の研究者などから生まれている。新しい発電装置や蓄電池、生命科学を応用した新技術、ナノテクノロジーを応用した新素材など、分野も対象も多種多様である。しかし、こうした新しい技術なりアイデアが実際に世の中に普及し、使われるようになるには多くの難関を乗り越えていく必要がある。

アイデアが実証されるかどうかというテクノロジー・リスク、製品として成り立つかかどうかの製品化リスク、さらには商品として実際に売れるかどうかのマーケティングリスクなど、多くの山や谷が待ち構えているのである。基礎技術の場合、その実証に長い時間が必要だ。そのあとのプロセスも、人々の生活を変えるインパクトを持つ技術であればあるほど、その実現に長期間を要する可能性が高い。

欠かせないのは、そうしたプロセスに伴うコストを賄う資金であり、サステナブルな事業を築くためのビジネスモデルだ。カネの切れ目が、技術開発の切れ目となるケースがとても多い。特に短期間で成果を出すことが求められるビジネス社会においては、長期にわたる基礎技術の開発は非常に難しくなっている。

例えば、The Guardian紙で紹介している「空気中から二酸化炭素を直接回収する技術」がある。空気中から二酸化炭素を直接取り除くことで、温暖化対策に貢献するというアイデアである。大きなフィルターに空気を通し、溶解液などで二酸化炭素を抜き出して、抜き出した二酸化炭素を合成燃料などに使用するもの。工場のように一カ所で処理できない車や飛行機などが排出する二酸化炭素を空気中から直接取り出して分離しようとする技術である。

現在、これを研究開発し普及しようとするいくつかのベンチャー企業により各地でパイロット事業が行われている段階だ。カナダのカルガリーをベースにするCarbon Engineerはビル&メリンダ・ゲイツ財団からの支援を受けて事業化を進めており、スイスのClimeworksは自動車メーカーのアウディ(Audi)から資金を調達している。またニューヨークを拠点にするGlobal Thermostats社も米国のエネルギー関連企業からの資金調達を受ける見込みと言われている。

どの企業も直面しているのが、サステナブルなビジネスモデルの構築だ。この技術が温暖化対策の効果的な手段となるには、何千億円という投資が必要となり、そのコストを払おうという政府や国際機関は現れていない。回収した二酸化炭素を商業用に利用するとしても、まだ規模が小さすぎて事業を継続させるまでには至らない。長期的にビジネスの機会を伺うための、短期的な資金の調達がどの企業にとっても喫緊の課題だという。

日本でも、多種多様な基礎技術の開発に対して政府は後押しをしようとしており、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)やJST(科学技術振興機構)などを通じてバックアップのプログラムが展開されている。パイロットまで持っていくことは比較的やさしいが、ビジネスとして普及させる戦略構築の可否、それを行うことのできる人材の確保が今後の明暗を分けるであろう。

ご参考:Startups have figured our how to remove carbon from the air. Will anyone pay them to do it? / The Guardinan July 14, 2015

【ビジネスモデル】リバース・イノベーションを成功させる5原則

リバース・イノベーションで失敗しないための5原則

リバース・イノベーションとは、新興国のためにデザインした製品やサービスに改良を加え、先進国の市場で販売するコンセプトである。

2015年7月号のHarvard Business Reviewにリバース・イノベーションを最初に提唱したVijay GovindarajanとAmos Winterが、これまでのさまざまな企業の実績を踏まえ、リバース・イノベーションで陥りがちな5つの罠と成功させるための5つの原則を論じている。少し長くなるが紹介したい。

陥りがちな罠1:(先進国向けの)既存の製品をそのまま新興国に売ろうとすること

既存の製品やサービスをベースに改良を加えて新興国の市場に売り出すことが一番簡単でリスクが少ないように思われるが、実はこの方法では買い手はつかない。実際のニーズと合わないことが多いのだ。

デザイン原則1:まず問題の本質を理解せよ

既存の商品をどう売るかではなく、途上国のユーザが直面している課題の本質を理解し、具体的なニーズを把握することが先決。新興国の固有の問題やニーズに焦点を充てて研究すべきである。

陥りがちな罠2:機能を落として価格を低くすること

既存製品やサービスの機能を落として価格を低くすることこそ新興国へ進出する方法だと勘違いする企業が多いが、これは間違いである。新興国のユーザも高い機能を求めている。

デザイン原則2:新興国に固有の設計自由度を生かして最適な設計を目指す

機能を落とすという発想ではなく、新興国に固有の設計自由度を生かして最適なデザインを目指すべきである。先進国では見当たらないものや使うことのない技術でも、新興国では最適に機能することもある。新興国の固有の環境の中で、いかに最適な方法を見いだすかが大切。

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陥りがちな罠3:技術的な要件を徹底的に検討することなく設計すること

導入しようとする製品やアイデアが現実的に機能するかどうかの技術的な検討が不徹底で、重要な点が見過ごされたことで失敗に終わるケースが多い。

デザイン原則3:消費者の課題の背景にある技術的な要件を全て分析すること

先進国の常識で状況を判断するのではなく、新興国に固有の状況を徹底的に分析することが大切。例えばトラクターを導入する際には、新興国の状況に合わせて軽量にする必要があるが、農作業での状況を分析するだけではなく、人の運搬にも使うというような当地の使い方にも目を配るべき。

陥りがちな罠4:ステークホルダーに無関心

企業によっては、新興国に数日間滞在し、それで全てが分かったように思うところがあるが、それは間違いである。

デザイン原則4:できるだけ多くのステークホルダーとテストすること

ユーザだけではなく、つくる人、売る人、買う人、修理する人、廃棄する人のように、できるだけ多くのステークホルダーを巻き込んでテストを行うべき。また、設計する時には「ユーザのため」というより「ユーザと共に」という態度で協働する姿勢で臨んだ方が良い。

陥りがちな罠5:新興国向けのデザインが先進国で受け入れられるとは信じないこと

先進国の消費者はブランド志向が強く、途上国から製品には関心がないと考える。あるいは逆に既存製品の強剛になると恐れることは間違いである。

デザイン原則5:新興国で直面する制約をバネに世界に通じる製品をつくる

途上国のさまざまな制約は、それを乗り越えるために技術のブレークスルーが生まれる可能性がある。制約のある環境でデザインした製品をベースに、先進国の仕様や嗜好に合わせて改良することで、高性能で低価格の商品を先進国で販売することができる。

リバース・イノベーションの事例は、まだ多いとは言えないが、新興国の発展が勢いをつけていくなかで、大企業にとっても無視できない戦略となるであろう。記事では、多くの事例を挙げて上記の5つの原則を開設している。途上国の社会課題を解決する多くのイノベーションが生まれてくることを期待したい。

“Engineering Reverse Innovations” by Vijay Govindarajan &Amos Winter/ Harvard Business Review July-August 2015