【ソーシャル】データ・フィランソロピィで社会に貢献!

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ロイヤルティ・プログラム(優良顧客に対して特典を提供するプログラム)の世界的リーダーであるAimia社は、保有している顧客のロイヤルティに関する専門知識と世界中の人材や経験を生かして、非営利団体の経営改善に役立つ社会貢献を行っている。

非営利団体の持つデータを解析し、より良い事業活動の提案を行うことで、社会課題の解決に貢献することが目的だ。これを「データ・フィランソロピィ」と呼んでいる。この活動は、今年のThe Guardian Sustainable Business Award の社会インパクト部門で大賞を受賞し、The Guardian紙に関連記事が掲載されているのでご紹介したい。

始まったのはイギリスからだ。Aimia社の傘下にあるNectar社(イギリスのロイヤリティ・プログラムのトップ企業)が取り組んでいる。同社のデータ分析の専門家達がプロボノで働き、過去2年間でのべ15,000時間を費やし、50以上のチャリティ団体を支援。また活動資金として250万ポンド(約5億円弱)の調達にも成功しているとのこと。

例えば、若いホームレスを支援する非営利団体に対しては、12ヶ月のプロジェクトに40人の専門家が参加し、ホームレスの若者に関するデータを解析。ホームレスを支援するプログラムの有効性について分析・評価し、より効果的な介入(intervention)を提案している。

若者のスポーツ振興を行う非営利団体では、コーチの働く仕事の30%が情報整理のためのデスクワークであることが判明。タブレットなどを活用した効率的な情報収集のシステムづくりに取り組み、コーチがもっと多くの時間を子供たちに充てられるように改善した。

本活動の対象となるのは、データ分析に必要な情報量を保有している比較的大きな非営利団体に限られるが、せっかく蓄積した大量のデータを十分に生かせない団体においては、組織の効率化や有効なプログラムの企画・評価という点で、大きな成果を生み出す可能性がある。

またこれは一方的な慈善活動ではなく、Aimia社にとっても、会社の信用を高め、従業員の経験と訓練の機会ともなり、企業としてのメリットも大きいという。

現在、イギリス以外にもアメリカ、オーストラリア、カナダと活動を広げており、今後は更に拡大する方針とのこと。「データ・フィランソロピィ」というビジネスと社会貢献のベクトルが一致するこのモデルには、サステナブルな社会を構築するための大切なヒントが含まれているように思われる。

Aimia Harnesses the Power of Data Insight for Social Good/The Guardian

【ソーシャル】アメリカで注目!コミュニティでつくる健康という考え方

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Well Beingを作り出す人とコミュニティのあり方

人が健康であるとはどういうことであろうか。ランニングをして体を鍛えることなのか。新しい医術や薬の発明であろうか。今、アメリカで健康に生きることの意味を問い直し、人とコミュニティの新しいあり方を議論する動きが進んでおり、スタンフォード・ソーシャル・イノベーション・レビューのCommunities Creating Healthと題するブログ・シリーズのなかで、さまざまな研究者や実践者の意見が投稿されているので紹介致したい。

それぞれのコメントのテーマや背景は異なるが、底辺に流れる問題意識や主張は共通しているー今の医療制度は、「病の治療」や「肉体的な健康の促進」というような狭い範囲でしか健康を考えない傾向が強いが、もっと広い意味での「well being(人間的に豊かな生活)」を実現するための方法を考えるべきであり、その鍵となる「コミュニティ」の役割を重視すべきだという主張だ。

全部で19の投稿が掲載されているが、個人の本当の幸せとは何かという観点から議論する人もいれば、現状の医療費用の高騰や国家財政の観点から意見を述べる人もいる。また、そもそもコミュニティの地域や構成員の多様性からコミュニティの定義について論じる研究者もいる。

Communities Creating Health: An Introduction(コミュニティのつくる健康:序論)

What is Community Anyway?(コミュニティって何だろう?)

Investing in Community-led Health(コミュニティがつくる健康づくりに投資しよう)

全体として論理的にあいまいで具体性に欠ける印象も受けるが、社会の構造が大きく変化し、人と人との結びつきが希薄化するなかで、高齢化する社会をサステナブルなものにしていくための課題を提起し、コミュニティの果たしうる役割を見直そうとする意見は傾聴に値する。

「コミュニティ」といっても、もはや私たちは「古き良き時代」に戻ることはできない。かといって、今の社会や人々の生活のあり方をそのまま続けることもできない。新しい価値観と人口構造、ますます多様化する人と人とのつながり方を踏まえ、21世紀の「Well Being」を模索することが求められている。

イギリスの認知症フレンドリーなビジネス環境づくり

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認知症にやさしいビジネス環境づくり

高齢化社会を迎えようとしているイギリスでは、ビジネスシーンにおいても認知症とその介護に関わる家族にやさしい環境づくりに取り組むところが出てきている。

アルツハイマーズ・ソサエティ(Alzheimer’s Society)が主催する認知症アクション・アライアンス(Dementia Action Alliance)では、2015年5月にリバプールで全国初めての「認知症にやさしいビジネス(Dementia Friendly Businesses Event)」を開催している。これはリバプール市の経営者を対象に、認知症の方々にやさしい環境がいかにビジネスの発展に役立つかというテーマで講演やワークショップが行われたものだ。

認知症を理解することで、より良い顧客サービスが可能になるとワークショップでは訴える。店頭でどう認知症の顧客に対するかというサービス事業者の役に立つだけではなく、例えば不動産開発事業者が、いかに認知症の家族を持つ家庭が生活しやすい街や建物をつくっていけるか、考えるきっかけにもなるという。

認知症という個人や家族の課題を、どう社会が受けて止めて「自然」な環境づくりをしていくか。福祉やボランティアという観点だけではなく、ビジネスの視点からも環境づくりに取り組むアプローチは合理的であり、必要だと感じる。

The Guardian紙の記事はこちら(Businesses Ignore the Dementia Time-bomb at Their Peril)。記事の題名の意訳は「経営者よ、認知症を無視するのは致命的なリスクです!」。

パラダイムチェンジを迎える途上国の水支援

社会起業家への熱い期待

WHOとUNICEFが先頃公表したレポートによれば、現在、世界の91%の人々に安全な飲み水が供給されているという。1990年時点では世界人口のわずか76%にすぎず、この25年間で大きく改善した。安全な飲み水にアクセスできない国民が50%を超える国は1990年には23カ国あったが、現在では3カ国に減少している。

Progress on Sanitation and Drinking Water-2015 Update and MDG Assessment

しかし、今でも6億6千万人の人々がいまだに安全な飲み水にアクセスがないという。これはアフリカのサブサハラと南アジア地域の国々に集中していて状況はなかなか改善しない。

水道設備などの大型インフラが整っていないところでは、従来、井戸の掘ることが奨励されたが、一旦掘られた井戸はメンテナンスが行き届かず、数年して使えなくなるケースが多い。井戸を管理し長く使えるようにするには、管理する技術とモチベーションを持つ人が必要だが、日々の運営を国際機関やNGOが継続的に行うのは難しい。現地の人々も「援助慣れ」してしまい、自力で管理しようとするモチベーションも低い。

そこで今注目されているのが社会起業家だ。世界でユニークな取り組みが試みられている。

例えばインドのNextDropは水道局による水の配給時間を携帯電話のSMSで近隣に伝えるというサービスを行っている。インドの都市では水道局による水の配給の時間と量が不安定だ。日によって配給の時間が変わり、多くの人々(特に女性)が時間を無駄にしている(タイミングを間違えると水を受け取れない)。一定の手数料で配給情報を送るサービスは好評で、ユーザが増えているという。狙いはこうして集めた人々のデータだが、面白い試みだ。

NetDrop Uses Big Data, Texting to Improve Water Distribution

国際的なNGOであるWaterAidはWater Kiosk(水キオスク)なるモデルを試している。地元の社会起業家と組み、プリペイドサービスで水の供給が受けられるシステムだ。マラウイ、ウガンダ、ケニア、カンボジアなどで試験的にスタートしている。携帯電話のプリペイドのチケットを買うように、水のチケットを買う仕組みである。

WaterAidのWater Kioskの模様(Youtube)

まだ動きとしては小さいが、ユニリーバもOxfamと共同で、2014年12月にナイジェリアの都市内に2つの水供給センターを設け、地元の起業家に運営を任せている。NGOであるOxfamも、従来の援助に偏った支援の方法を、今後は市場への投資(Cash in Market)という方法へ重点を置いていくことを考えているという。

変化の意味するところ

こうした世界の動きから何が見えるだろう。ひとつには安全な飲み水のような社会課題へのアプローチが、画期的な道具や製品の創出という次元から、「オペレーションのイノベーション」に重点がシフトしてきていることだ。

それは部品としてのソリューションではなく、広い意味でのシステムとしてのソリューションに移行してきている兆候が見える。そこから生まれる付加価値を持続可能なエンジンに仕立てる戦略である。NextDropが水配給の情報を伝えるという単純なサービスから、じつはユーザの基本的な生活にかかわる情報を集め、より大きな付加価値のあるソリューションを提供しようとしているのはその典型だ。

また、援助機関のハンズオンに関する認識が変わってきてようにも思える。従来のハンズオンは「できるものができないもののためにやってあげている」という図式があり、そこに無理もあって持続しないケースが多かった。今は援助側も、できないことはできないと明確に割り切り、できないところをどのように地元のNGOや社会起業家と役割分担するかというところに、重点を置き換えているように見える。NGOや外部パートナーとのコラボレーションは今に始まったことではないが、持続的な運営の責任とリターンに対する厳密な議論が必要になってきているようだ。

このパラダイムの変化は、今後5年〜10年の間に大きく加速することが予想される。これからのBOPビジネスを考えていく上で無視できない兆候だ。

書籍紹介:善意で貧困はなくせるかー貧乏人の行動経済学

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「貧困解消の方法」を評価する方法

困っている人がいれば助けたいという善意の気持ちを誰しもが持っている。しかし、貧困という一見単純に見える問題が、実はロケット打ち上げにもまさる複雑さをもっていると知るとき、私たちは善意だけでは打ち勝てないことに思い至る。具体的な問題を冷徹に分析し、戦略性を持つことが必要となるのだ。本書がテーマとするのは、問題の本質を理解し戦略を評価するための、行動経済学に基づく新しいアプローチである。

著者は開発の分野でよく引き合いに出される「魚を与えればその人は一日食べられる。魚のつり方を教えれば一生食べられる」という中国のことわざを疑問視する。確かにわかりやすい言葉だが、あまりに単純化しすぎて、本質を見えなくしているのではないだろうか。何よりも上からの目線で、顔の見えない支援になっていると筆者は指摘する。

貧困を解決したいなら、それがどういうことなのかを抽象的な言葉でなく、現実として知る必要がある。どんな匂い、どんな味、どんな手触りかを知る必要がある。

この現実を捉えるツールとして採用されているのが「ランダム化比較試験(RCT)」という方法である。この方法そのものは新しいものでは全くないが、開発の分野にRCTを持ち込んで、貧困解消のためのさまざまなプロジェクトやプログラムを、具体的な裨益者レベルにおいて厳密に評価できるようにしたことは画期的であった。

例えばマイクロファイナンスは、グラミン銀行のユヌス博士を筆頭に、具体的な実践の積み重ねによってつくられた仕組みである。グループ貸し付けのような独特の方法論が、成功モデルとして全世界に広まったが、その成功要因や課題を厳密に分析・評価されることなく、本質的なところは良く知られていなかった。そこに著者の研究グループはRCTを適用してマイクロファイナンスの本質を浮き彫りにしていく。その手法は、推理小説を読むようであり、人間の顔が見えてくる。

本書では農業、教育、ヘルスケアとなど、多岐にわたる分野のプロジェクトをRCTで分析・評価している。どれも問題の所在を明らかにし、特定の方法論の意義と課題を明確にしようとする。読者はそこに新しい視点を見いだし、課題のなかに機会も見えることに気付くだろう。社会と人間の謎解き本としても面白く読める。

善意で貧困はなくせるのか?―― 貧乏人の行動経済学
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イギリスのBuy Socialキャンペーン

Social Enterprise UKのホームページより転載

Eat me, Drink me, Wear me, Buy me: Social Enterprise UKのホームページより転載

イギリスのソーシャル・エンタープライズ普及法

イギリスは、国の政策として社会起業家(ソーシャル・エンタープライズ)を推進していて、その着実な広がりは地に足の着いたもののように見える。当然、無数の試行錯誤を日々繰り返してきて、今に至ったものに違いないが、そのアプローチが戦略的で実務的なところがお国柄を感じさせる。

例えばソーシャル・エンタープライズの普及と支援を行っているSocial Enterprise UKは、社会起業家の「業界団体」のような存在だが、その主要な活動は政府へのロビー活動であり、政策提言とソーシャル・エンタープライズのアジェンダを政策の優先事項に上げるためのキャンペーン活動を中心に活動を展開している。メンバーを動員して政治的な力を増し、社会起業家の利益代表として国に働きかける姿勢は、日本ではまだ見られない動きだ。

Social Enterprise UKのホームページ

その数あるキャンペーンの中に、2012年から始まったBuy Socialキャンペーンがある。これは一般の民間企業と消費者の購買活動をソーシャル・エンタープライズに結びつけることを狙いにしており、企業の仕入れ調達のサプライチェーンのなかに、ソーシャル・エンタープライズを組み込むことで「企業の社会的な価値も上げよう」というキャンペーンである。

Buy Social キャンペーンの動画

すごいなと思うのは、こうしたキャンペーンの厚みである。ソーシャル・エンタープライズのデータベースつくって公開し、企業の調達規則のドラフトまで用意する。「これでもか」と様々な施策を畳み掛ける。こうした施策が全て成果を出している訳ではないだろうが、その重厚さは見習いたい。

日本でのソーシャルな動きは、ビジネスコンテストが花盛りでイベント的なものが多いように感じるが、本当に社会を変えるには、多くの人々を動員する戦略性と実務能力も必要になってくると思われる。

ドイツにおけるインクルーシブ教育の意識調査

Deutsche Welieの記事より転載

Deutsche Welieの記事より転載

ドイツのBertelsmann Foundationが行ったインクルーシブ教育に関するドイツ国民の意識調査の結果が公開された。レポートはドイツ語で書かれているのだが、概略が英字紙に掲載されていたのでご紹介したい。

ドイツでは2009年に国連の「障害者の権利に関する条約」を批准し、インクルーシブ教育の普及を進めている。本調査は、批准後6年が経過する今、ドイツ国民の意識がどのようになっているかを4300名の親を対象にインタビュー調査を行ったものである。

調査によれば、回答した4300名の3分の1以上がインクルーシブ教育を行う学校に子供を通わせている。インクルーシブ教育を行う学校に対する親の評価は高く「子供を通わせている学校に満足しているか」という質問に対し「満足」と答えた親は68%にのぼり、インクルーシブ教育を導入していない学校に子供が通う親の58%を上回る。

先生に対する評価も高く「説明がきちんとできる」、「教えることへのコミットが高い」、「子供の長所を伸ばしている」といった項目で、インクルーシブ教育を行う学校の先生の評価は一般の教師より高くなっている。

調査結果にはインクルーシブ教育に関する親たちの複雑な思いも反映されている。調査対象の7割がインクルーシブ教育が社会に必要と回答する一方、障害者は特別学校で学んだ方が良いとする回答者は6割を超え、半数がインクルーシブ教育によって障害を持たない子供たちの学習が遅れると考えている。

日本でも2014年1月に「障害者の権利に関する条約」を批准、関連法が施行となっている。現場レベルも含めてどのような教育システムを構築していくのか、具体的な議論はこれからだ。インクルーシブな教育とは何か、そもそも教育とは何かの根本的な議論がなされ、全ての子供たちがそれぞれの個性やニーズに応じて成長できる社会に(時間をかけながら)変化していくことを期待したい。

条約批准後のドイツでも、地方公共団体レベルでの対応はまちまちで、すこしずつ理解が広まっている様子だ。これから始まる日本においても長い時間と多くの議論が必要となるに違いない。次世代の社会を生きる子供たちのために、わたくしたち一人一人ができることは、まずは知ることだろう。

記事: Educational Inclusion Slowly On The Rise In Germany, Study Shows/Deutche Welie/ 2015.7.1

調査レポートはこちら(ドイツ語)

イギリスの高齢化問題に特化したインパクト・インベストメント

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高齢化対策に取り組む社会起業家を支援

日本は高齢化社会の先進国などと言われているが、高齢化社会への危機感は日本の専売特許ではない。イギリスでも今後20年間に大きな人口構成の変化が見込まれている – 85歳以上の人口は今の倍となり、65歳以上の高齢者は全人口の四分の一を占めるようになるという。

イギリスがおもしろいのは、高齢化のような課題に様々な社会起業家がユニークな方法で取り組んでいて、それを支援するエコシステムが出来上がってきているところだ。たとえば2012年に設立されたNesta Impact Investmentsは、高齢化社会の課題に取り組む社会起業家へ投資するインパクト・インベストメント・ファンドである。

2015年3月に発行されたレポートには、Nesta Impact Investmentの活動や投資先などが詳しく書かれている。特に焦点をあてているのが「認知症」の問題。現在、イギリスでは85万人が認知症に苦しんでおり、その数は2020年には100万人を超える。認知症を抱える本人もそうだが、実はサポートする家族などの介護者の悩みや苦しみは大きい。

こうした悩みや苦しみを一人で解決するのは難しい。社会全体で支援する仕組みが求められるが、国の支援には限界がある。ここに社会起業家による新たなイノベーションが求められているといえよう。Nesta Investmentは、社会起業家の新たな挑戦を支援することで高齢化社会に備えようとしている。もちろん市場としても高い成長が見込まれ、ビジネスとしても魅力的な分野だ。

「なるほど」と感じたのは、インパクト・インベストメントの必要性についての見解だ。国は高齢化社会対策に巨額を費やしているが、実はマクロ的な対策が多い。たとえば新しい治療の方法や診療に対する助成金などである。しかし、実際に苦しんでいる庶民に対する直接の裨益が少ない。国の手が直接には届かない庶民のサポートには、民間の起業家、社会起業家や投資家の役割が大きいとみており、インパクト・インベストメントの意義はその役割の一部を担うことだという。

実は、このファンドを運営するNestaはとても興味深い団体である。その紹介は回を改めて。

Nesta Impact Investmentのレポート:Remember Me(PDF)