【スマートシティ】市民のネットワークがつくる安全マップ

Wheelmap   find wheelchair accessible places

身体障害者を支える地図づくり

一般にスマートシティという言葉は、日本ではITや環境技術などの先端技術を駆使して街全体の電力の有効利用を図ることで、省資源化を徹底した環境配慮型都市のことをいう。再生可能エネルギーの効率的な利用を可能にするスマートグリッド、電気自動車の充電システム整備に基づく交通システム、蓄電池や省エネ家電などによる都市システムを総合的に組み合わせた街づくりが行われる(出典:知恵蔵mini/(株)朝日新聞出版社発行)。

しかし、日本以外でのスマートシティという言葉はもっと広い意味で使われている。「電力の有効利用」というのは、その一部でしかない。健康、教育、市政への参加など、市民生活のあらゆる分野を対象とする。ITや環境技術が使われるが、何も先端技術であることもない。前回、前々回と2つの記事で紹介している事例は、その典型である。

そこには、大事なことは市民の生活であるというメッセージがはっきりしていると思う。日本のスマートシティの議論では「経済発展」や「環境対策」といった言葉が全面に出ており、生身の人間に寄り添うイメージがない。日本での「スマートシティ」は死語になったという人もいるが、私たちはもっと自分たちの生活レベルで考えていく必要があるように思う。

例えば、弱者に対する支援だ。ドイツのNGOであるSoziaheldenが2010年に開発したWheelmapというオンラインマップは、都市における様々な場所(ホテル、レストラン、小売店など)における車いす利用者の安全性・利便性を評価し、一般に公開してる。この評価は市民がスマホのアプリケーションを利用してアップするもので、2010年に開始以来、全世界で50万カ所の評価がなされた。このオンラインマップは、車いすにとって安全でないところを一般に知らせると同時に、政府に対して改善を要求するメッセージの意味もある。

オリンピックを2020年に控え、東京の街も大きく変わるであろうが、その際にも市民の生活に寄り添ったアイデアや技術が生まれていくことを期待したい。

【スマートシティ】民主主義の未来?!パリとアイスランドの事例

Accueil   Madame la maire

「スマートシティ型」民主主義のパイロット

ネット社会が普及し、IoTの環境が成長する中で、民主主義の形は変化するであろうか。そのことを考えるヒントとなる試みが、パリやレイキャヴィーク(アイスランドの首都)で行われている。市民がネットを通じて公共事業の提案を行い、投票し、予算の使い方を決めていく。

パリのプロジェクトの名前が面白い:Madam La Maire, J’ai Une Idee(知事さん、私はアイデアを持っています!)。レイキャヴィークの方は、Better Reykjavik(より良いレイキャヴィークをつくろう!)である。どちらもネットでつながった社会で市民の直接の参政権の可能性を探っている。

ダウンロード (1)

パリの場合は、2014年から開始した6年間の長期プロジェクトで5億ユーロ(約675億円)の予算を割り当てている。現在までに5000を超えるアイデアが寄せられている。因みに今までで最も人気が高かったアイデアは市内41カ所の建物の壁を使った垂直ガーデン(Veriticle Garden、右の写真)で、市民から21,000票を得て、2百万ユーロ(約2億7千万円)の予算が投入され実現している。

予算の配分の仕方もユニークだ。パリを20の区画に分け、郊外の貧しい地域には、市内中心地より15倍の予算が振り分けられており、社会的弱者への配慮に重点を置いたものとなっているが特徴的だ。

Madam La Maire, J’ai Une Ideeのホームページはこちら

Betri Reykjavík   þín rödd í ráðum borgarinnar

レイキャヴィークの場合は、ホームページに市民がアイデアを投稿すると、市民の関心の高いアイデアについては議会で取り上げ、予算を振り分けるかどうかを議論する。既に200近くのアイデアが採用され、1.9百万ユーロ(約2億6千万円)の予算がつけられたという。

Better Reykjavikのホームページはこちら

ホームページを見ると市民と市の行政が丁寧に一つ一つを吟味している様子がわかる。あるアイデアが投稿されるとまず市民がネット上で賛否を議論する。例えば、学校にもっと創造的なカリキュラムを導入すべきだと言う意見を出す人がいれば、それに対して賛否が出される。Nestaの記事によれば、市民の60%が一度はこの議論に参加しているという。

関心が高いアイデアに関しては、市議会の委員会に議事として採択される。そこでの議論などは議事録という形で市民に公開され、アイデアを実施するとなれば、予算がつけられる。自転車にやさしい街づくり、ファミリーパーク前へのバス停留所の新設など、多種多様な意見が出ていて、市民のニーズを汲み取ることに役に立っていることがわかる。

レイキャヴィークの市民参加のためのホームページは、Your Prioritiesというオープンソースのプラットフォームで開発され、運営されている。市民が直接アイデアを出し、優先度をつけ、何を採択するかを決めるためのプラットフォームを提供しており、無料で世界中の行政府や団体が利用できる。エストニアでも導入され、5万人の市民によって2000のアイデアが寄せられ、その内15件のアイデアが議会で採択され、7件が既に法制化したという。

人々のニーズに照らして考えるとき、市民の政治への直接参加は大事なアジェンダになる。市民の声をより良く聞き、市政に生かすためのツールとして、こうしたプラットフォームは今後も増え、市民の市政への直接参加の流れは加速するであろう。スマートシティは、市民による意思決定の仕方に、大きな変革をもたらすことにある。技術のイノベーションが進むにつれ、私たちはおそらく未曾有の大衆政治の時代を迎えることが予想される。そのメリットとリスクを見極めていくことが、未来を創る私たちに問われている。