【スマートシティ】市民のネットワークがつくる安全マップ

Wheelmap   find wheelchair accessible places

身体障害者を支える地図づくり

一般にスマートシティという言葉は、日本ではITや環境技術などの先端技術を駆使して街全体の電力の有効利用を図ることで、省資源化を徹底した環境配慮型都市のことをいう。再生可能エネルギーの効率的な利用を可能にするスマートグリッド、電気自動車の充電システム整備に基づく交通システム、蓄電池や省エネ家電などによる都市システムを総合的に組み合わせた街づくりが行われる(出典:知恵蔵mini/(株)朝日新聞出版社発行)。

しかし、日本以外でのスマートシティという言葉はもっと広い意味で使われている。「電力の有効利用」というのは、その一部でしかない。健康、教育、市政への参加など、市民生活のあらゆる分野を対象とする。ITや環境技術が使われるが、何も先端技術であることもない。前回、前々回と2つの記事で紹介している事例は、その典型である。

そこには、大事なことは市民の生活であるというメッセージがはっきりしていると思う。日本のスマートシティの議論では「経済発展」や「環境対策」といった言葉が全面に出ており、生身の人間に寄り添うイメージがない。日本での「スマートシティ」は死語になったという人もいるが、私たちはもっと自分たちの生活レベルで考えていく必要があるように思う。

例えば、弱者に対する支援だ。ドイツのNGOであるSoziaheldenが2010年に開発したWheelmapというオンラインマップは、都市における様々な場所(ホテル、レストラン、小売店など)における車いす利用者の安全性・利便性を評価し、一般に公開してる。この評価は市民がスマホのアプリケーションを利用してアップするもので、2010年に開始以来、全世界で50万カ所の評価がなされた。このオンラインマップは、車いすにとって安全でないところを一般に知らせると同時に、政府に対して改善を要求するメッセージの意味もある。

オリンピックを2020年に控え、東京の街も大きく変わるであろうが、その際にも市民の生活に寄り添ったアイデアや技術が生まれていくことを期待したい。

【スマートシティ】民主主義の未来?!パリとアイスランドの事例

Accueil   Madame la maire

「スマートシティ型」民主主義のパイロット

ネット社会が普及し、IoTの環境が成長する中で、民主主義の形は変化するであろうか。そのことを考えるヒントとなる試みが、パリやレイキャヴィーク(アイスランドの首都)で行われている。市民がネットを通じて公共事業の提案を行い、投票し、予算の使い方を決めていく。

パリのプロジェクトの名前が面白い:Madam La Maire, J’ai Une Idee(知事さん、私はアイデアを持っています!)。レイキャヴィークの方は、Better Reykjavik(より良いレイキャヴィークをつくろう!)である。どちらもネットでつながった社会で市民の直接の参政権の可能性を探っている。

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パリの場合は、2014年から開始した6年間の長期プロジェクトで5億ユーロ(約675億円)の予算を割り当てている。現在までに5000を超えるアイデアが寄せられている。因みに今までで最も人気が高かったアイデアは市内41カ所の建物の壁を使った垂直ガーデン(Veriticle Garden、右の写真)で、市民から21,000票を得て、2百万ユーロ(約2億7千万円)の予算が投入され実現している。

予算の配分の仕方もユニークだ。パリを20の区画に分け、郊外の貧しい地域には、市内中心地より15倍の予算が振り分けられており、社会的弱者への配慮に重点を置いたものとなっているが特徴的だ。

Madam La Maire, J’ai Une Ideeのホームページはこちら

Betri Reykjavík   þín rödd í ráðum borgarinnar

レイキャヴィークの場合は、ホームページに市民がアイデアを投稿すると、市民の関心の高いアイデアについては議会で取り上げ、予算を振り分けるかどうかを議論する。既に200近くのアイデアが採用され、1.9百万ユーロ(約2億6千万円)の予算がつけられたという。

Better Reykjavikのホームページはこちら

ホームページを見ると市民と市の行政が丁寧に一つ一つを吟味している様子がわかる。あるアイデアが投稿されるとまず市民がネット上で賛否を議論する。例えば、学校にもっと創造的なカリキュラムを導入すべきだと言う意見を出す人がいれば、それに対して賛否が出される。Nestaの記事によれば、市民の60%が一度はこの議論に参加しているという。

関心が高いアイデアに関しては、市議会の委員会に議事として採択される。そこでの議論などは議事録という形で市民に公開され、アイデアを実施するとなれば、予算がつけられる。自転車にやさしい街づくり、ファミリーパーク前へのバス停留所の新設など、多種多様な意見が出ていて、市民のニーズを汲み取ることに役に立っていることがわかる。

レイキャヴィークの市民参加のためのホームページは、Your Prioritiesというオープンソースのプラットフォームで開発され、運営されている。市民が直接アイデアを出し、優先度をつけ、何を採択するかを決めるためのプラットフォームを提供しており、無料で世界中の行政府や団体が利用できる。エストニアでも導入され、5万人の市民によって2000のアイデアが寄せられ、その内15件のアイデアが議会で採択され、7件が既に法制化したという。

人々のニーズに照らして考えるとき、市民の政治への直接参加は大事なアジェンダになる。市民の声をより良く聞き、市政に生かすためのツールとして、こうしたプラットフォームは今後も増え、市民の市政への直接参加の流れは加速するであろう。スマートシティは、市民による意思決定の仕方に、大きな変革をもたらすことにある。技術のイノベーションが進むにつれ、私たちはおそらく未曾有の大衆政治の時代を迎えることが予想される。そのメリットとリスクを見極めていくことが、未来を創る私たちに問われている。

【スマートシティ】スマートな歩行者のための標識が「歩く街」をつくる

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 スマートシティのあり方を考える

Nestaがスマートシティのあり方を考える新しいレポートを出している。本レポートでは、スマートシティの歴史とこれまでの事例を概観しながら、これからのトレンドとしてCollaborative Technologies(市民協調的技術)のコンセプトを紹介している。

スマートシティには、国や行政がトップダウンで決定し、高いコストをかけて推進するプロジェクトが多く、コストに見合う効果を出せない事例も少なからずある。また、ハードウェアの技術に重点が置かれる傾向があり、ともすれば実際の市民のニーズを見落とすこともある。今、世界で広がりつつあるのは、市民側からのイニシアチブでスマートシティをつくろうとする動きで、そのキーワードは「協調」「オープン」「ボトムアップ」であるという。

このレポートで紹介している事例を、これからSPEでシリーズで紹介する。次世代のスマートシティのあり方について考える参考になればと思う。

「歩く」を促す街づくり

単純なアイデアが街を大きく変えることもある。そのことを考えさせてくれるのがアメリカのWalk [Your City]である。

日本では街を歩くことは普通であるが、アメリカや新興国などでは車社会が中心で、歩くことは二次的とも言えるのが実情だ。道路の標識は、基本的に自動車を運転する人の為に設置されていることがほとんどである。速度制限や駐車禁止などもそうであるが、行き先を示す標識も「◯◯まで3Km」という示し方で、自動車での移動を前提にしている。歩行者への配慮はあまりない。

Walk [Your City]は、その状況を「◯◯まで徒歩5分」といった歩行者のための標識を電柱などに括り付けて、歩きやすい街づくりをしようとする実にシンプルなアイデアだ。標識には、QRコードがあり、スマホなどで自分の位置や近隣の情報も得られるようになっている。

アイデアそのものは、あるいは画期的ではないかもしれない。画期的なのは、これを市民の側で自発的に考えて実施されたもので、それが世界中に広がるムーブメントとして広がったことだ。

行政が歩行者のための標識を街に設置することはある。しかし、それを実現するためには多くの手続きと高いコストがかかるのが通常だ。Walk [Your City]は、ビラを貼るのと同じ感覚で歩行者のための標識づくりを一夜で、低コストで実現してみせた。そしてこれを世界に広めたのはSNSによるソーシャル・メディアである。Walk [Your City]は、個人の実験として始まったが、今は法人化し、オーダーメイドで標識をつくり、発送するビジネスに発展している。

ホームページには、さまざまな都市のケーススタディが掲載されているが、それぞれがクリエイティブな方法で「歩く」街づくりを行っていて、人々のわくわく感が伝わってくる。

Walk [Your City]ホームページはこちら

「協調的な技術」を使う新しいスマートシティは、こうした一般の人々のわくわく感で築かれてくのだろう。目からウロコが落ちる思いである。

【ビジネスモデル】激変する社会で生き残るための新しい「戦略」のつくりかた

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「戦略」や「計画」の新しい方法論

「戦略」という言葉は、もともと軍事用語であった。クラウゼビッツの「戦争論」での議論が特に有名だ。戦略(あるいはそれに基いた計画)は、軍事的な用途だけでなく、いまやあらゆる分野で使われている。多くの企業や団体において中長期の戦略が練られ、計画が立てられている。「計画とおりに」という言葉は、ものごとが順調に進んでいることを示す、わかりやすい表現である。

しかし、昔ながらの戦略や計画づくりに対して、今、見直しの機運が高まっている。伝統的な戦略や計画は、諸条件が大きく変化しないことを前提につくられているが、現代のようにあらゆるものが変化し、また変化の予測が極めて困難な時代にあって「変化しない」ことを前提に戦略や計画を立てることは、まったく意味をなさなくなってきているからだ。

変化に対応する新しい「戦略」はいかにあるべきか。

ベンチャーの世界では「リーン・スタートアップ」という方法が紹介され、広まっている。効果を試すための最低限のリソースを投入し、短いPDCAのサイクルを繰り返す。市場の反応を分析し、効率的に製品・サービスの改善を図り、市場の反応次第では「ピボット」と呼ばれる大幅な作戦変更も辞さない。変化と不確定を前提とし、あいまいで見通しがつかない社会で、目標に向かって生き残るための方法を示している。

リーン・スタートアップ

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少し古い記事になるが、Stanford Social Innovation Reviewでは、非営利団体の戦略的計画について、Monitor InstitutionのDana O’Donovan/COOとNoah Rimland Flowerが主張する新しい戦略づくりの方法論が紹介されている。

The Strategic Plan is Dead. Long Live Strategy./ Stanford Social Innovation Review Jan 10, 2013

新しい戦略づくりは、以下の3つの点で伝統的な戦略の方法論を置き換えていく必要があるとする。なかでも「データ収集」から「パターン認識へ」という点が興味深い。

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「予測(Prediction)」→「実験(Experiment)」

「トップダウン」→「チーム全体での意思決定」

上の2つは比較的イメージが湧きやすいが、「パターン認識」とは何であろうか。

「パターン認識」とは、

自然情報処理のひとつ。 画像・音声などの雑多な情報を含むデータの中から、意味を持つ対象を選別して取り出す処理である。 音声データから人間の声を認識して取り出し命令として解釈する音声認識、画像データの中から文字を認識してテキストデータに変換する(OCR)、大量の文書情報の中から、特定のキーワードを認識して文書の検索を実施する全文検索システム、などの技術がこのパターン認識に含まれる。(Wikipediaより抜粋)

著者のいう「パターン認識」とは、洪水のように溢れる大量のデータなかで「意味を持つ対象を選別して取り出す」ことに重点をおく手法という意味であろう。しかし、その方法論や実際に選別された意味を持つ対象をどう処理するかは、記事でも分からずもっと研究が必要だ。

また、変化を続ける環境の中で大事なことは、以下の自問自答を繰り返すことであるという。大きなビジョンを考え、攻めるべき分野や方法論について議論し、最後に保有しているリソースを見極める。そこで得た答えを手がかりに、更に自問自答をくりかえす。いったりきたりしながら方向性を見定め、継続的に調整を行う手法である。

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この方法で大事なことは(ここが一番難しいところでもあると思うが)、このサイクルを継続的に回転させるモチベーションや仕組みをいかにして築くかであろう。特に、目先で成功している時に、この問いを真摯な態度で組織が自己に発し、見直していくことは見かけほどはやさしくないはずだ。

社会は激動を続けているが、私個人のレベルでは「現状を維持したい」という根強い感覚(無意識的であっても)がある。私たちは「発明は必要の母なり」という言葉の深い意味を考えなければならないだろう。

【エネルギー】グリーン経済へ向けて:世界の投資動向

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クリーンエネルギーや省エネ、環境に優しいインフラ施設など、サステナブルな社会と地球環境を目指すグリーン経済への投資が世界的に増えてきている。対象が異なる2つのソースから世界の動向を見ていきたい。

グリーン経済への民間投資は年間110兆円

Strategic Sustainable InvestmentのTimothy Nash氏によれば、グリーン経済への民間投資は2007年以来の累計で770兆円を超えているという。これは再生可能エネルギー、グリーン・ビルディング、スマート・グリッド、エネルギー効率が高い上下水施設、あらゆる種類のクリーン・テクノロジーズへの投資の累計で、クリーン石炭など「つけ刃」的な技術への投資は除いている。

本件記事はこちら:Does $6.2 trillion in green investment matters to global economy? 

年間ベースで見ると2008年のリーマンショック時に大きく減ったあとは、徐々に投資額が増加している。2014年の実績では8,790億ドル(約110兆円)と2008年時の倍の額に迫ろうとしている。

SocialFinance.caから転載

SocialFinance.caから転載

この規模感だが、世界の2014年における年間の民間投資額総計が16兆ドル(約2095兆円)に対しては5.2%、石油・石炭関係への民間投資額(2013年)が約1兆ドル(約124兆円)なので、今や石油・石炭関連を追い抜く勢いだ。

急速に増加するクリーンエネルギー市場:中国が牽引

また、クリーンエネルギーに対象を絞ったBloomberg New Energy Financeによれば、公共・民間の両方を合わせた世界のクリーンエネルギーに対する投資額は3100億ドル(約38兆円)となっている。2011年のピーク時よりは低い水準ながら、2013年対比16%の伸びであり、過去10年間で5倍の額に増加しているという。

世界で最もクリーンエネルギーへの投資額が大きいのが中国で895億ドル(約11兆円)。次いで米国が518億ドル(約6.4兆円)、日本は413億ドル(約5.1兆円)となっており、ブラジル、インド、南アフリカなどの伸び率も高い。欧州全体では660億ドル(約8.2兆円)である。こうした投資額の半分が太陽光発電関連であり、次が風力発電となっている。

最新のデータはこちらを参照:Global Trend in Clean Energy Investment 2015Q1

環境汚染で悪名の高い中国が、世界で突出してクリーンエネルギーへの投資額が大きいのは意外に思われるかもしれないが、近い将来、グリーン経済の分野でもリーダー的な存在に変わる可能性もある。

また太陽光発電の伸びは、途上国において大きく、大きなインフラ投資もあるが、家庭用の太陽光発電装置が急増している。こうした家庭用のソーラー発電装置の急速な普及は、無電化地域の削減に大きく寄与しており、世界の様子を激変させている。

こうした大型の投資の多くがアセットファイアンス(Asset Finance)で行われている。こうしたファイナンスの手法の確立も、投資急増に一役を買っていると思われる。これについては、別途、お伝えしたい。

【ソーシャル】オーストラリアのカフェ系ソーシャル・エンタープライズ

メルボルンのソーシャル・エンタープライズのひとつCharcol Laneから転載

メルボルンのソーシャル・エンタープライズのひとつCharcol Laneのホームページから転載。アボリジニの自立支援をレストランを通じて行っている。

オーストラリアのメルボルンでは、カフェやレストラン形態のソーシャル・エンタープライズがちょっとしたミニブームとのこと(Refugees welcome: inside Melbourne’s social enterprise cafe/ The Guardian July 15, 2015)。少なくとも13社が既に稼働していて、今後も増えていく見込みだという。内容を見てみると利益を発展途上国に100%還元するというところもあれば、人材育成を目的にするところもある。

中でも興味深いと感じたのは、社会的弱者を対象に人材教育に力を入れているところである。オーストラリアは移民を多く受け入れる国であり、アフリカやアジアなどからの移民や避難民が多いが、避難してきた途上国の若者が職を得ることは難しい。人種差別も残っている。先住民のアボリジニの人々も職を得るのは難しいという。その状況を改善するために、カフェやレストランで短期間雇用し、飲食業で働くための基本的なスキルを身につけさせ、社会で自立できるようにしているのがソーシャル・エンタープライズが増えてきているのだ。

Charcoal Laneは、地元の食材を生かした料理でを出す地元のレストランであるが、アボリジニの若者への支援と飲食業で仕事するためのスキルとトレーニングの機会を提供している。ホームページの写真を見る限り、とても上品でありながらアットホームな感じのする店内で、こうしたところで訓練を受けたということであれば、次の職探しにもプラスとなるであろう。

Long Street Coffeeは、2015年6月にオープンしたばかりだが注目を集めている。ここでは、アフリカなどの途上国からの移民や避難民を対象にカフェでのオンザジョブ(On the Job)トレーニングを目的にカフェを開いた。創業者のFrancois and Jane Marx夫妻は、2014年に2名の若い避難民を雇って、アートフェスティバルに出店を出すことからスタートした。その後、クラウドファンディングで集めた資金と自分たちの貯金を元手に、ガレージを改装してカフェをオープンした。現在、ガンビア、イラン、マレーシアからの移民3名を6ヶ月間雇用して、訓練を行っている。いずれもオーストラリアに来て、初めての職だ。

It’s one thing to accept that asylum seekers come here, and accept that they are refugees, but it’s a whole other thing to expect them to somehow create a life for themselves when they can’t find employment despite all their best efforts,” Jane says. “We want to uphold the Australian value of a fair go.

「亡命希望者にオーストラリアに来ることを認めて避難民として受け入れることと、彼らがここで職を見つけて生活を築けるかどうかは全く別の話だ。実際、どんなに努力しても職が見つからない。私たちはオーストラリアのfair go(公平にチャンスを与えること)の価値を守りたい」とJaneさんは語る。

Broadsheet.comの記事より/ Long Street Coffee Opens in Richmond

メルボルンへ立ち寄ることがあれば、是非、こうしたレストランやカフェを訪ねてみて頂きたい。

【イノベーション】よいアイデアが普及することの難しさ:空中から二酸化炭素を回収

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良いアイデアと良いビジネスモデルの間にあるギャップ

素晴らしいアイデアは、世界中の研究者などから生まれている。新しい発電装置や蓄電池、生命科学を応用した新技術、ナノテクノロジーを応用した新素材など、分野も対象も多種多様である。しかし、こうした新しい技術なりアイデアが実際に世の中に普及し、使われるようになるには多くの難関を乗り越えていく必要がある。

アイデアが実証されるかどうかというテクノロジー・リスク、製品として成り立つかかどうかの製品化リスク、さらには商品として実際に売れるかどうかのマーケティングリスクなど、多くの山や谷が待ち構えているのである。基礎技術の場合、その実証に長い時間が必要だ。そのあとのプロセスも、人々の生活を変えるインパクトを持つ技術であればあるほど、その実現に長期間を要する可能性が高い。

欠かせないのは、そうしたプロセスに伴うコストを賄う資金であり、サステナブルな事業を築くためのビジネスモデルだ。カネの切れ目が、技術開発の切れ目となるケースがとても多い。特に短期間で成果を出すことが求められるビジネス社会においては、長期にわたる基礎技術の開発は非常に難しくなっている。

例えば、The Guardian紙で紹介している「空気中から二酸化炭素を直接回収する技術」がある。空気中から二酸化炭素を直接取り除くことで、温暖化対策に貢献するというアイデアである。大きなフィルターに空気を通し、溶解液などで二酸化炭素を抜き出して、抜き出した二酸化炭素を合成燃料などに使用するもの。工場のように一カ所で処理できない車や飛行機などが排出する二酸化炭素を空気中から直接取り出して分離しようとする技術である。

現在、これを研究開発し普及しようとするいくつかのベンチャー企業により各地でパイロット事業が行われている段階だ。カナダのカルガリーをベースにするCarbon Engineerはビル&メリンダ・ゲイツ財団からの支援を受けて事業化を進めており、スイスのClimeworksは自動車メーカーのアウディ(Audi)から資金を調達している。またニューヨークを拠点にするGlobal Thermostats社も米国のエネルギー関連企業からの資金調達を受ける見込みと言われている。

どの企業も直面しているのが、サステナブルなビジネスモデルの構築だ。この技術が温暖化対策の効果的な手段となるには、何千億円という投資が必要となり、そのコストを払おうという政府や国際機関は現れていない。回収した二酸化炭素を商業用に利用するとしても、まだ規模が小さすぎて事業を継続させるまでには至らない。長期的にビジネスの機会を伺うための、短期的な資金の調達がどの企業にとっても喫緊の課題だという。

日本でも、多種多様な基礎技術の開発に対して政府は後押しをしようとしており、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)やJST(科学技術振興機構)などを通じてバックアップのプログラムが展開されている。パイロットまで持っていくことは比較的やさしいが、ビジネスとして普及させる戦略構築の可否、それを行うことのできる人材の確保が今後の明暗を分けるであろう。

ご参考:Startups have figured our how to remove carbon from the air. Will anyone pay them to do it? / The Guardinan July 14, 2015

【エネルギー】ドイツの脱原発、脱火力発電の現状

Deutsche Welle (DW)のホームページより転載

Deutsche Welle (DW)のホームページより転載

進む代替エネルギーの活用/進まない脱火力発電

ドイツ政府は、4年前の2011年6月30日、東日本大震災を受けて、稼働している17の原発を2022年までに全て停止とすることを決定した。直ちに8基の原発が稼働停止となり、先月9基目の原発が停止となっている。

ドイツの長期目標として、2050年までに再生可能エネルギーが発電量に占める割合を80%まで引き上げることを目指しており、ガスや石炭による発電も割合を落としていく方針だ。ドイツにおける気候変動に関する関心の高さと議論は、日本では想像がつかないほど真剣で、促進派も反対派も、政策における優先度は高い。

脱原発宣言をしてから4年が経過した現状をDWが記事にしているのでご紹介致したい。

Deutsche Welle (DW)のホームページより転載

Deutsche Welle (DW)のホームページより転載

上記のグラフのとおり、再生可能エネルギーの占める割合が大きく増加した。4年前から11%増の28%となっており、原発とガスによる火力発電を置き換えている様子がわかる。ちなみに日本は5%程度である。一方、石炭による火力発電の割合は43%で変化なしとなっている。

ドイツは2020年までに1990年対比40%の二酸化炭素輩出量を削減する必要があり、火力発電の削減は喫緊の課題となっている。この対策として、ドイツ政府は二酸化炭素排出量の大きい非効率な火力発電所に対して、気候税(Climate Levy)の導入を現在検討している。

利害の激しい対立

このような政策は、当然のことながら激しい対立を生み出している。原発や火力発電を運営していた電力会社はエネルギー政策によるビジネスの損失を国に負担させるべく動いており、気候税については、火力発電所の従業員組合や石炭の坑夫組合の猛烈な反対がある。一方、これに対抗してグリーンピースのような環境保護団体が、大きなデモを展開するといった具合だ。

脱原発の問題は、発電所を廃炉にするということだけでは済まない。核廃棄物の安全な処理という大きな課題が残る。核廃棄物を数百万年にわたって格納する場所と方法を見いだして処理を完成するには30年〜80年を要すると言われている。電力会社は360億ユーロ(約4兆9千億円)を原発の廃炉と核廃棄物の処理費用として積み立てているが、実際の費用は500億〜700億ユーロになる可能性を指摘する論者もいる。その場合、国家と国民への負担は非常に大きいものとなる。

ドイツの無謀にも見える挑戦が、どのように推移するのか。世界は固唾をのんで注目している。

How far along is Germany’s nuclear phase out? / Deutsche Welle June 29, 2015

【ソーシャル】カメルーンのソーラー発電による給水システムの意外な成果

A pioneering solar-powered water project has allowed villagers in Cameroon’s arid north to start small businesses. Photograph: imageBROKER/Alamy

A pioneering solar-powered water project has allowed villagers in Cameroon’s arid north to start small businesses. Photograph: imageBROKER/Alamy

飲み水の安定的な供給が生み出す好循環

カメルーンの北部地域の深刻な水不足を補うために設置されたソーラー発電による地下水の給水システムが思わぬ成果を出して注目されている。The Guardianの記事を紹介する。

この地域は降水が不安定なため、慢性的な水不足に陥っており、汚水を飲み水にするための病気が蔓延している。加えて、ボコハラムによる避難民の流入も増えて、事態は非常に悪化していた。カメルーンのNGOであるThe Center for Environment and Rural Transformation (Cerut)は、ソーラー発電で地下水を汲み上げるシステムを作り、パイプを通じて近隣の村々に飲み水を供給する仕組みをつくった。太陽光が強いこの地域では、一日に4万リットルの水を汲み上げることができるという。村民の水不足は解消し、病気で苦しむこともなくなった。

このシステムのユニークなところは、地下水を汲み上げるポイントをひとつにしてメンテナンスのコストを下げていることだ。そこから40カ所ある給水ポイントへ水を流し、各給水ポイントで水を貯める。各家庭は、この給水ポイントから手動で動く簡単なポンプを使って水を家庭用の容器にいれて持ち帰る。維持費用や設置のコストを人々のキャパシティに対応してバランスを取った仕組みになっている。

興味深いのは、水を得た農民たちの利用法だ。Cerutは政府の協力も得て、200名の女性に助成金を支給し、自営のビジネスを始めることを奨励した。水を汲むための長い時間の拘束から解放され、自由な時間を得たことで、現金収入を得るための新しい仕事ができるようになった。

中でも地ビールの生産が伸びているという。この地域ではビールづくりに必要なミレットの収穫が水の安定的な供給により4倍に増えたことに加え、原料となる水の安全性が確保でき、需要が大きく高まっているのだ。連鎖的な悪循環を断ち切り、好循環に変えていくシナリオが見えてきた。

ソーラー発電システムの単価が劇的に低くなってきていることから、こうしたソリューションは今後も増えてくだろう。バングラデシュでも、ソーラー発電を利用した灌漑システムを政府が後押しして広がっている。

Beer and Business: the unexpected benefits of water access in Cameroon/ The Guardian July 7, 2015

【ビジネスモデル】リバース・イノベーションを成功させる5原則

リバース・イノベーションで失敗しないための5原則

リバース・イノベーションとは、新興国のためにデザインした製品やサービスに改良を加え、先進国の市場で販売するコンセプトである。

2015年7月号のHarvard Business Reviewにリバース・イノベーションを最初に提唱したVijay GovindarajanとAmos Winterが、これまでのさまざまな企業の実績を踏まえ、リバース・イノベーションで陥りがちな5つの罠と成功させるための5つの原則を論じている。少し長くなるが紹介したい。

陥りがちな罠1:(先進国向けの)既存の製品をそのまま新興国に売ろうとすること

既存の製品やサービスをベースに改良を加えて新興国の市場に売り出すことが一番簡単でリスクが少ないように思われるが、実はこの方法では買い手はつかない。実際のニーズと合わないことが多いのだ。

デザイン原則1:まず問題の本質を理解せよ

既存の商品をどう売るかではなく、途上国のユーザが直面している課題の本質を理解し、具体的なニーズを把握することが先決。新興国の固有の問題やニーズに焦点を充てて研究すべきである。

陥りがちな罠2:機能を落として価格を低くすること

既存製品やサービスの機能を落として価格を低くすることこそ新興国へ進出する方法だと勘違いする企業が多いが、これは間違いである。新興国のユーザも高い機能を求めている。

デザイン原則2:新興国に固有の設計自由度を生かして最適な設計を目指す

機能を落とすという発想ではなく、新興国に固有の設計自由度を生かして最適なデザインを目指すべきである。先進国では見当たらないものや使うことのない技術でも、新興国では最適に機能することもある。新興国の固有の環境の中で、いかに最適な方法を見いだすかが大切。

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陥りがちな罠3:技術的な要件を徹底的に検討することなく設計すること

導入しようとする製品やアイデアが現実的に機能するかどうかの技術的な検討が不徹底で、重要な点が見過ごされたことで失敗に終わるケースが多い。

デザイン原則3:消費者の課題の背景にある技術的な要件を全て分析すること

先進国の常識で状況を判断するのではなく、新興国に固有の状況を徹底的に分析することが大切。例えばトラクターを導入する際には、新興国の状況に合わせて軽量にする必要があるが、農作業での状況を分析するだけではなく、人の運搬にも使うというような当地の使い方にも目を配るべき。

陥りがちな罠4:ステークホルダーに無関心

企業によっては、新興国に数日間滞在し、それで全てが分かったように思うところがあるが、それは間違いである。

デザイン原則4:できるだけ多くのステークホルダーとテストすること

ユーザだけではなく、つくる人、売る人、買う人、修理する人、廃棄する人のように、できるだけ多くのステークホルダーを巻き込んでテストを行うべき。また、設計する時には「ユーザのため」というより「ユーザと共に」という態度で協働する姿勢で臨んだ方が良い。

陥りがちな罠5:新興国向けのデザインが先進国で受け入れられるとは信じないこと

先進国の消費者はブランド志向が強く、途上国から製品には関心がないと考える。あるいは逆に既存製品の強剛になると恐れることは間違いである。

デザイン原則5:新興国で直面する制約をバネに世界に通じる製品をつくる

途上国のさまざまな制約は、それを乗り越えるために技術のブレークスルーが生まれる可能性がある。制約のある環境でデザインした製品をベースに、先進国の仕様や嗜好に合わせて改良することで、高性能で低価格の商品を先進国で販売することができる。

リバース・イノベーションの事例は、まだ多いとは言えないが、新興国の発展が勢いをつけていくなかで、大企業にとっても無視できない戦略となるであろう。記事では、多くの事例を挙げて上記の5つの原則を開設している。途上国の社会課題を解決する多くのイノベーションが生まれてくることを期待したい。

“Engineering Reverse Innovations” by Vijay Govindarajan &Amos Winter/ Harvard Business Review July-August 2015